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『熱闘甲子園』が“宿舎の取材”を大事にする理由とは? 毎晩生放送『報ステ』も兼務するヒロド歩美アナ(31歳)の忙しすぎる夏
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byYuki Suenaga
posted2023/08/15 11:04
この春からABCテレビを退社し、フリーに転向したヒロド歩美アナウンサー(31歳)。今年も各地の高校へ出向き、球児たちの夏に奔走している
地方大会では、チームに陽性者が出たことで出場を辞退する学校が続出した。ヒロドはそんな野球部に出向き、励ましの声をかけ続けた。
「DMなどで辞退した学校の関係者や親御さんたちから“引退試合があるので来てもらえませんか”と言われることもありました。私で良ければ喜んで、という感じで配慮しながらできるだけ顔を出すようにしていていました」
不遇を味わう選手たちに寄り添い続けたように、ヒロドには高校野球を伝える上でこだわりがある。それは、試合後だけでなく、宿舎や日々のグラウンドでの練習、野球以外の時間を丁寧に切り取ることだ。
「2021年夏の甲子園初戦で、東海大菅生が8回途中雨天コールドで大阪桐蔭に敗れた試合。雨の中、泥だらけになりながら投げていた東海大菅生のピッチャーの本田(峻也/現・亜細亜大)君が、宿舎でリモート取材した時に『歴史上、俺らだけだよな。あんな豪雨の中で投げたの』と初戦敗退したのに笑顔で話していたんです。その様子の写真を(番組の)インスタグラムに上げたら『笑顔を見られて良かった』というコメントがすごく多くて驚きました。甲子園で敗れた高校生たちは球場では号泣していますが、宿舎に戻るとみんな笑顔。やっぱり高校野球の最後は笑っている姿を見たいですから」
ヒロドがそう熱弁するように『熱闘甲子園』の番組作りでも“終わり方”に重きを置くのは、「大舞台でも笑顔で終わってほしい」という制作スタッフ一同の願いだという。
「もう少し自由に取材を」フリー決断の理由
今ではすっかり野球の現場が板についてきたヒロドだが、この春に大きな決断をした。それはABCテレビを退社し、フリーアナウンサーに転身したこと。最大の決め手になったのは、やはり“高校野球”だった。
「報道番組やバラエティ番組とたくさんの経験をさせていただきましたが、スポーツの魅力に触れたことでもっと集中して取材したいと感じるようになりました。フリーになればなんでもできるとは思っていませんが、もう少し自由に取材できたらと思ったんです。特に高校野球に関しては……」
『熱闘甲子園』の取材で各地を飛び回っていたヒロドだが、シビアな話、局アナとなれば他の業務に追われ、ましてや残業時間だって気にしないといけない。制限がかかることも少なくなかった。そんな本音を打ち明けると、会社側も快く承諾。「先輩アナに少々いじられることもある」と笑うが、周囲の後押しも受けて、現在も『熱闘甲子園』を始めとするABCテレビの仕事にも携わりながら新しい生活をスタートさせた。
「(フリーの仕事は)自分で線を引いて、自分で見つけに行く感覚です。もちろん、その場その場で指導していただいたり、サポートをしてもらったりしているから線を引くことができることは理解しています。でも、ルールに縛られず、マニュアルがない中で、自分でゴールを見つけていく作業は(小学校時代に慣れ親しんだ)ヨットに近いかもしれないですね」