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“令和の怪物”伯桜鵬19歳が「化け物になる」と誓った日…「圧倒的なパワーの持ち主ではない」ザンバラ髪のホープの“意外な実像”とは
text by
荒井太郎Taro Arai
photograph byJIJI PRESS
posted2023/08/01 17:01
「落合」あらため「伯桜鵬」という新たな四股名も注目を集めた名古屋場所。“19歳の怪物”は新入幕ながら千秋楽まで賜盃を争った
対戦相手が語った“策士”ぶり「目で騙されました」
「勝った相撲の倍くらい、負けた相撲は見直します。幕内は全員が化け物というか怪物。その中で自分は細かいところでやっていくしかない」と自身の弱点にしっかり向き合いつつ、相手を“丸裸”にするまでとことん研究して取組に臨む。対戦したある力士は、自分の左脇腹下の廻しの位置を指さしながら言った。
「目で騙されましたね(笑)。仕切っているときにこの辺を見ているから右前みつを取りにくるかと思ったら、違う立ち合いできた」
19歳とは思えない“策士”ぶりである。宮城野部屋で指導にあたる間垣親方(元幕内石浦)は12日目、小結阿炎の突っ張りの猛攻を土俵際、天を向くほどに上体がのけ反りながら堪えた場面をこう評した。
「力を抜いて残しましたよね。あの場面で力を抜いて残すとは、スケールが違います」
上半身の力を敢えて抜いて弓なりになることで、阿炎の突っ張りの威力を外に逃がしつつ、びくともしない下半身の力を利用して下からもろハズに入って反撃に転じると、前傾姿勢のまま一気に優勝経験者を押し出した。
コロナ禍真っ只中の鳥取城北高2年時、高校横綱に輝くと「もっと強くなって『あいつは化け物』と言われるようになりたい」と当時からすでに将来を見据えていた(3年時にも2年連続で高校横綱を獲得)。
しかし、181cmの上背は現在の関取衆の中でも平均クラス。体つきもそれほど大きいわけでもなければ、圧倒的なパワーの持ち主でもない。その日の取組が終われば、翌日の対戦相手を研究し尽くして次の相撲に備える。地道な努力を積み重ねるこうしたひたむきな姿は、およそ“化け物”や“怪物”とったイメージにはそぐわない。しかしそれが、大旋風を巻き起こしたザンバラ髪のホープの実像だった。