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エディー・ジョーンズ電撃解任の余波…やはりリミットは「4年」なのか?「明朝までに仕上げて欲しい」周囲を疲弊させた“ハードな宿題”
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byItaru Chiba
posted2022/12/16 17:27
ラグビー界に衝撃が走った名将エディー・ジョーンズの解任劇。来年のW杯で日本と対戦するイングランドの決断は吉と出るか
就任して7年目の秋、今年のオータムネーションシリーズは、次のような成績になった。
●アルゼンチン(29−30/11月6日)
〇日本(52−13/11月12日)
△ニュージーランド(25−25/11月19日)
●南アフリカ(13−27/11月26日)
こうなるとイングランド出身でないことも、マイナスに働き出す。真の意味での「後ろ盾」がいなかったからだ。
2019年から2023年までの「4年」は、誰にとっても長すぎたのかもしれない。
今回は、ラグビーの盛んな国でたくさんの論評が出た。中でも最も的確だったのは、「ガーディアン」紙のロバート・キットソン記者の記事だ。
"From magician to misfit"というタイトルでキットソン記者は、エディーさんのWork Ethic、高い職業倫理感が連鎖的に不幸を引き起こすと示唆する。
「ひとりのスタッフに対するハードな宿題は、それが巡り巡って、誰かを暗黒へと突き落とすことになる」
「コーチとして仕事上の意識はこの上なく高く、徹底的に管理することを望む。シャープなセンスのユーモアを持ち、なによりコーチングとラグビーを愛する——ところが、時間の経過とともに人々を疲弊させることになる」
この論評には心当たりがある。
エディーさんの宿題「明朝までに仕上げて欲しい」
2015年のW杯を戦った日本代表のスタッフからも、夜、時計の針がてっぺんに近づいてくるころになって、「明朝までに仕上げて欲しい」と、エディーさんから宿題を出されるのは珍しいことではなかった、という声を聞いた。
スタッフはどうしても睡眠不足になりがちとなる。しかし、エディーさんも寝ていなかった。
「ベッドサイドにはメモパッドを置いています」
と私に語っていたが、読書に励み、あらゆる国の記事を読み、研究を怠らなかった。常に頭を働かせていた。「おそらく平均睡眠時間は4時間ほど」という証言も聞いた。
タフなのだ。
エディーさんは、同じ職業倫理を他人に求める。彼の特異なところは、その高い意識、そして行動が延々と続けられるということだ。
ところが、多くの人間はそれを継続できない。日本、そしてイングランドの例を見ると、「4年」がリミットという気がしないでもない。イングランドでは選手、スタッフの入れ替えが激しかったという。
日本の場合、仕事を投げ出すことを恥とする文化が、体制を支えたといえるかもしれない。