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井上尚弥と「150ラウンド以上」実戦した“真面目すぎたボクサー”…今も悔やむ“土下座した最後のスパーリング”「現役17年。彼に生かされた」
posted2022/12/13 17:01
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph by
Masakazu Yoshiba
「鼻のところ、骨が折れているよ」
井上が2階級上げ、WBO世界スーパーフライ級王者オマール・ナルバエス(アルゼンチン)を倒した頃、強さのレベルが急カーブで上がっていくのを黒田は感じた。左フックを浴び、ヘッドギア上部の革が引きちぎれた。目の上をカットすることもあった。だが、めげない。計150ラウンド以上で一度もダウンを喫したことはなかった。いつしか大橋から「黒田君が尚弥と一番やっているよ」と言われるようになっていた。
大橋ジムでの練習は伸び悩む黒田を高めていく。井上の速いテンポに対応しながら一瞬一瞬の状況判断ができるようになった。試合の方がゆっくりとしたリズムに感じ、打ち合いでも冷静に次のパンチをイメージできる。
井上が既に世界王座を4度防衛していた'17年2月。黒田は日本フライ級暫定王座決定戦でユータ松尾を破り、日本2階級制覇チャンピオンとなった。
井上がバンタム級に上げると、パワーの差が歴然となり、スパーリングはめっきり減った。新田は慎重になり、黒田も「もうそろそろ」と思うようになった。
日本フライ級王座の防衛を4度重ね、'19年5月、6年ぶりとなる世界挑戦にたどり着く。試合2カ月前、久しぶりに井上と手合わせした。
「これ以上強い相手はいないから大丈夫。もう怖いものはない」
自らを鼓舞してIBF世界フライ級王者モルティ・ムザラネ(南アフリカ)に挑んだが判定負け。試合後、病院でMRI検査をした。画像を見ながら医師から告げられる。