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「あばらや鼻を折られた者もいた」井上尚弥とのスパーリング拒否続出も…なぜ“元日本王者”は恐れなかったのか「殴られっぱなしでは嫌でした」
posted2022/12/13 17:00
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph by
Takuya Sugiyama
日本王者を圧倒…「井上のプロテスト」
うだるような暑さで汗を拭ってもすぐに滴り落ちてくる。2012年7月初旬。日本ライトフライ級王者の黒田雅之は川崎新田ジムで練習をしていると、会長の新田渉世から呼び止められた。
「決まったからよろしく」
アマチュア7冠を獲得した井上尚弥の公開プロテストの相手だという。井上の注目度を高めるため、大橋ジム会長の大橋秀行が発案し、打診を受けた新田は受諾した。
その3カ月前、黒田は井上と既に拳を交えていた。井上は父真吾、母美穂とともに川崎新田ジムにやってきた。高校を卒業したばかりの19歳と4ラウンドのスパーリング。左利きかと思うほど左フックが強く、左ボディーが巧い。綺麗な動きの中に力強さがあった。その日から何度か拳を交わし、井上の実力は肌身で分かっていた。
7月10日、東京・後楽園ホール。観衆1300人が見守る中、セミファイナルの前に異例となる公開プロテストが行われた。
ゴングが鳴る。様子を見る黒田。すると井上の鋭い左ジャブが伸びてきた。素早いコンビネーション。右のストレートは重い。スピードとパワー、いずれもプロ入り前の若者の方が上回っている。25歳の日本チャンピオンは終始圧倒された。
静かな会場に野次が響き渡る。