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波乱の初戦敗退も…なぜ京都国際ナインは“笑顔”だった? センバツ辞退の絶望、勝てない春…“無表情だった”エース森下瑠大が変わった日
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKYODO
posted2022/08/07 11:03
初戦敗退の京都国際ナイン。試合中はエース森下を筆頭に、ナインの笑顔が目立った
「春のセンバツの辞退から『野球を当たり前にできない』ことを教えてもらいましたし、最後はみんなで笑って終わりたかったので」
森下も、他の選手も…なぜ笑っていたのか
今年のセンバツ。京都国際は新型コロナの集団感染により、大会前日に出場を辞退する悲劇を味わわされた。
ダメージは大きかった。小牧は、「去年の3年生に比べると、今年の3年生は逞しさが足りなかった」と評しており、センバツ後、初の公式戦となる春季大会は県準々決勝敗退。練習試合も5月までは、劣勢だとすぐに諦めてしまうほど精彩を欠いていた。
「夏はちょっと厳しいんじゃないか……」
監督ですら可能性を疑ってしまうほど、チームは低空飛行を続けた。
なかでも苦心していたのが森下だ。
5月頭に左ひじを負傷。京都国際の浮沈を大きく左右する絶対エースは、この時期について何度も「苦しい」と想いを打ち明けた。
「センバツが終わってから調子が上がらなくて。思うようにいかず、苦しい時間のほうが長かったです」
意外だったのは、その森下が真っ先に笑顔を作るようになったことだ。
小牧が言う。
「本来、ポーカーフェイスで淡々と投げるタイプなんです。なかなかチームの雰囲気がよくならないなかで、彼が笑顔を見せることで『最後の夏を楽しもうぜ!』と言っているような。投げられないなかでも、『せめて自分にできることは何か?』って考えた上でのことだったと思うんですけどね」
監督と心を通わせるように、森下も「心から楽しもうと笑顔を作るようになってから、チームの雰囲気がよくなった」と同調する。
笑顔とは「運気が上がる」などとよく言われるように、有名な「幸せの法則」でもある。京都国際はまさにそれを体現した。
笑顔が伝播する。キャプテンの辻が「笑って終わろう」と合言葉のように告げ、チームに活気が蘇る。夏の大会が始まっても万全ではなかったエースを森田大翔、松岡凜太朗ら控えピッチャーがカバーする。