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マスターズ制覇のシェフラー(25歳)が真っ先に「ヒデキ」の名を口にした理由…オーガスタで語り継がれる“陰の立役者たち”
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byKoji Aoki/AFLO SPORT
posted2022/04/13 11:01
前年王者・松山英樹からグリーンジャケットを受け取るスコッティ・シェフラー(25歳)
マスターズの歴史を遡れば、チャンピオンの優勝秘話には、必ず、そんな「支える人々」の逸話がある。
今年のマスターズ勝者、スコッティ・シェフラーにも、素晴らしき「支える人々」がいたからこそ、彼はグリーンジャケットを羽織ることができたのだろう。
マスターズ・チャンピオンが最初にグリーンジャケットを羽織るのは、表彰式ではなく、クラブハウスの一角にあるバトラー・キャビンで行なわれる恒例の儀式だ。
熱い戦いを終えたばかりのシェフラーは、初めて足を踏み入れたバトラー・キャビンの中に座り、その隣には、彼にグリーンジャケットを着せる役割を担っていた前年覇者の松山が座っていた。
テレビカメラが回り始めると、シェフラーがすぐさま口にした言葉が、とても印象的だった。
「ヒデキはよく知っていると思う。最終日はとても長い。優勝するまでの時間は、とても長いんだ」
人生で最も長く感じたその1日を乗り越えるためには、チームの支えが必要だった。何より支えが必要だった。その想いをともに知る松山にシェフラーは強い共感を覚えたからこそ、あの神聖なるセレモニーで、いきなり「ヒデキ」の名を口にしたのだろう。
「僕のバッグを担いでほしい」
昨年大会で早藤キャディは18番グリーン上でピンフラッグの旗部分を抜き取り、竿をカップに戻して、一礼した。
今年のマスターズが終わったとき、シェフラーの相棒キャディ、テッド・スコットは、18番のピンフラッグを丸ごと抱えて歩き出した。その姿は「これが僕の愛しい優勝トロフィーだ」と喜びを噛み締めているかのようで、なんとも微笑ましかった。
シェフラーとスコットがタッグを組んだのは、昨年11月のこと。スコットは、それ以前はバッバ・ワトソンの相棒キャディを2006年から務め、ワトソンのマスターズ2勝を含む通算12勝のすべてをスコットが支えた。
しかし、ワトソンとスコットは昨季限りでコンビを解消。キャディ業から引退しようと考えていたスコットに声をかけ、「僕のバッグを担いでほしい」と依頼したのが、シェフラーだった。
シェフラーは2020年から米ツアーに挑み始め、デビュー年も2021年も勝てそうで勝てず、初優勝までに思いのほか時間がかかっていた。
ところが、スコットがキャディを務め始めた途端、成績は急激に上向き始め、今年2月のフェニックス・オープンで初優勝を挙げると、アーノルド・パーマー招待で2勝目、デル・テクノロジーズ・マッチプレー選手権で3勝目を挙げ、ついにはマスターズを制覇してメジャー初制覇と通算4勝目を達成。
相棒キャディとなったスコットが、コース上で、試合において、どれほど大きな支えになっているかが窺い知れる。
そして、シェフラーには、コース以外の場所で、大きな支えになってくれている人がいる。愛妻メレディスのことだ。