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「死ににいくようなジャンプ」を着氷するために…羽生結弦が全日本選手権で見せた“王者の貫禄”と込み上げた感情《北京五輪へ》
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byGetty Images
posted2021/12/27 17:09
全日本選手権SPの演技を行う羽生結弦。優勝を果たし、北京五輪の代表権を獲得した
「まあ頑張ったな、という感じです。初日の(公式練習での)アクセルを、皆さんが見ていて、羽生、めちゃくちゃアクセルが上手になったと思われたと思うんですけど、あれができるようになったのが、本当にまだここ2週間くらい。それまではずっと、ぶっとばして跳んでいて軸が作れなくて、回転ももっと足りなくて、本当に死ににいくようなジャンプをずっとしていたんですけど、やっとああいうふうになり始めて……」
演技後、そう告白した羽生。死ににいくようなジャンプというのは穏やかではないが、普段の羽生のスピードを考えると、どれほど激しい転倒を繰り返していたのか想像できる。それで右足首の怪我をなだめながら全日本選手権に間に合ったというのは、奇跡のようだ。怪我の後ストレスから食道炎を患い、熱が出て1カ月練習できなかったことも告白した。
「まあ試合の中であれだけできたら、今の自分にとって妥協できるところにいるんじゃないかと思います」
フリーは211.05、総合322.36となり、6度目の優勝を果たした。
音楽表現で満点を出した新SP
2日前に初披露した、SPの演技も鮮烈だった。
曲はフランスの作曲家カミーユ・サン・サーンスの「序奏とロンド・カプリシオーソ」。もともとバイオリンの曲だが、ピアノ曲へのこだわりを持つ羽生がピアニストの清塚伸也氏に依頼してピアノ用にアレンジしてもらったものである。振付はジェフリー・バトルとシェイリーン・ボーンのコラボで制作されたのだという。これまでショパン「バラード第1番」や「秋によせて」など、ピアノ曲を得意として表現してきた羽生の、集大成のような作品に仕上がっていた。
冒頭の4サルコウ、そして4+3トウループ、後半の3アクセルをきれいに降り、ステップシークエンスでは9人のジャッジ全員がプラス5の加点をつけた。ピアノの音符の一つ一つを体の動きで表現し、コンポーネンツの音楽表現では9人中8人のジャッジが全日本初となる10点満点を出した。
王者、羽生結弦が戻ってきた、という貫禄の演技だった。
「初戦としては、落ち着いてできたと思います。一心不乱に戦いながら、何かをつかみ取るという気持ちで滑りました」