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オリベイラの急死「選手には前に進もうと話しました」 …湘南は“過酷すぎた残留争い”をどう乗り越えたのか?
posted2021/12/06 17:02
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph by
JIJI PRESS
0-0のドロー。
J1リーグ最終節、湘南ベルマーレは勝てばJ1残留が決定する中、ガンバ大阪と勝ち点1を分け合い、試合を終えた。試合終了時点では、まだ残留は決定していなかった。ベンチ前ではスタッフが携帯で、もう1試合の状況を確認していた。
その試合は徳島の試合だ。7分という長いアディショナルタイムに入っており、広島が徳島を4-2でリードしていた。徳島が勝てば湘南がJ2に降格するが、時間的にも内容的にも、その奇跡が起こる可能性は限りなく低かった。
まんじりともしない時間が過ぎていく中、携帯を見ていたスタッフ、選手が突然、笑顔を見せて抱き合う。スタンドでじっと状況を見守っていたサポーターからも拍手が湧き起こる。コロナ禍の観戦のために声を出して喜べないが、笑顔から喜びが伝わってきた。
山口智監督は、ビッグスマイルとはいかなかったが、小さな笑みを浮かべ、スタッフと肩をたたき合い、ホッとした表情を浮かべていた。
9月1日に監督に就任してから95日目。大きなミッションを達成した。
「負けないサッカー」でも…1カ月勝てなかった
監督としてのスタート時は、非常に厳しかった。
就任から10日後に臨んだ大分戦では、チームに硬さが見られ、いい所なく敗れ、初陣を飾ることができなかった。つづく福岡戦はドローに終わり、川崎、横浜FMら上位チームを相手にいい試合はできても勝利に結び付けることができない。結局、初勝利は10月23日の横浜FC戦で、そこまで1カ月半以上の時間を要したのだ。その後の札幌戦、広島戦もドローで勝ち点1を手堅く拾うが、残留争いから抜け出すための勝ち点3をなかなか奪えなかった。
守備が効いて負けないサッカーを展開できている。
そう評価されることが多く、山口自身も守備に対する手応えは感じていた。コーチとして就任してきた時から自ら率先して、守備のテコ入れをしてきたからだ。
「うちの選手は最初、人への意識が強すぎたので、そこを修正したんです。ボールやスペースを見られるようになり、細かいポジショニングで自分たちが優位にボールを奪えるシーンが増えた。それで失点は減ってきたんですが、良くなったのは数字だけではなく、試合の中で人にいくのかマークするのか、今どういう守備をしないといけないのか、を判断できるようになったんです」
失点は少ないのに「引き分けはリーグ最多の16」
守備の強化は、山口の「攻撃が好き、守備が嫌い」という考えがベースになっている。