競馬PRESSBACK NUMBER
「同期は大きな見出しに…」大野拓弥が15年前の新潟2歳Sで痛感した“ジョッキーは勝ってナンボ”という真理《JRA通算600勝も突破》
text by
平松さとしSatoshi Hiramatsu
photograph bySatoshi Hiramatsu
posted2021/09/04 06:00
2014年のスプリンターズSを勝利し、同年の香港スプリントに挑戦したスノードラゴンと大野拓弥騎手
「大外枠だけは嫌」と思っていたが、発表された枠順は大外18番。この時はさすがに唇を噛んだが、レースへ行くとそんな心配が杞憂である事に気付かされた。芦毛の相棒は大野が思っている以上に良いパフォーマンスを披露してくれたのだ。
「ゲートも落ち着いていて、スタートは思った以上に出てくれました。4コーナーではいつでも前を捉えられる位置取りで、他の馬達と比べても手応えが良い。『これなら!!』と思いました」
追うと、伸びてくれた。そして、2着のストレイトガールに半馬身の差をつけて先頭でGIのゴールに飛び込んだ。大野にとって、デビュー10年目でこれが初めてのGI制覇となった。
「勝たなくてはいけないという気持ちは常に持っているので、やっとGIを勝てて、ゴール後は思わずガッツポーズが出てしまいました」
更に2年後の16年にはやはり高木厩舎のサウンドトゥルーとのコンビでチャンピオンズC(GI)を優勝。その16年からは52、56、75勝と毎年、年間勝利数の自己記録を更新。昨年こそ少し勝ち星が減ったものの、今年は既にその昨年の数字を上回る41勝(8月29日現在)をマーク。JRA通算600勝も突破した。
“2つの2歳S”で痛感した勝利の重み
このように現在では押しも押されもしないトップジョッキーの仲間入りをしている大野だが、06年には、その後の彼の精神面に大きな影響を与える出来事があった。
この年の新潟2歳Sで大野はマイネルーチェに騎乗した。
「結果はハナ差の2着でした。悔しい気持ちもあったけど、デビュー2年目の自分としては精一杯乗って、頑張れたかな……とも思いました」
ところが、翌朝の新聞をみて唖然とした。2着に健闘した自分の扱いは思った以上に小さかった。
「同じ日の小倉2歳Sを同期の鮫島良太が勝っていて、そちらは大きな見出しになって取り上げられていました」
ショックを受けると共に「勝たなくてはいけない」と痛感。これがその後の彼のジョッキーとしてのマインドを形成する事になるのだった。
「どんなに良い騎乗をしても負けては駄目。ジョッキーである限り、とにかく勝ちを意識して乗る気持ちがより強くなりました」
さて、今週は小倉2歳Sの他に札幌2歳S(GIII)と新潟記念(GIII)も行われる。果たしてどんなドラマが待っているのか、注目しよう。