甲子園の風BACK NUMBER
《名門の変革》「マウンドに集まるの、やめないか?」智弁和歌山が小園健太を乗り越えた夏…イチロー直伝の走塁と全員野球
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph bySankei Shimbun
posted2021/08/08 17:02
和歌山大会を制し、4大会連続25回目の甲子園出場を決めた智弁和歌山高校。スタンドへの挨拶を終えると喜びを爆発させた
「球数を放らすことは考えなくていいから、どんどん勝負していきなさいということぐらいですね、言ったのは。それぞれ自分の感覚で行けばいい。うちの打線は4回も対戦しているので、打席に入っていない僕よりも、彼らのほうがおそらく悔しさも対策も、自分たちで持っているものが多いと思って、『任せるわ』と。それぞれに対策を持って挑んでくれました」
昨秋から両校は公式戦で4度対戦し、智弁和歌山は1勝3敗だった。昨秋は新人戦、和歌山大会、近畿大会で対戦して3連敗し、センバツ出場の道を阻まれた。それ以降、「小園投手を打ち崩さないことには、夏の甲子園もない」と、小園攻略をイメージしてバットを振り続けてきた。
試合が動いたのは6回裏。智弁和歌山は失策と四球で2死満塁とすると、7番・高嶋奨哉の適時打で1-0と先制した。7回表、先頭に安打を許したところで、伊藤に代わり、中西がマウンドに上がる。1死の後、5番・田中省吾に適時打を打たれ同点とされたが、その後のピンチをしのいだことが大きかった。
7回裏、1死二塁の場面で、2番・大仲勝海が右中間へのヒットでランナーを還して2-1と勝ち越し、これが決勝点となった。大仲は小園対策をこう明かす。
「とにかくコントロールがいいので、どんどん振っていこうと思いました。変化の小さい変化球が多いので、曲がる前に打とうという気持ちで、打席の前の方に立ちました」
結果的に、甘く入ったスライダーを弾き返した。その回さらに1点を加える。
最後に出た、イチロー直伝の走塁
8回裏には、足を使った秘策で貴重な1点を追加する。
2死一、二塁の場面。大仲の打球を、市和歌山の遊撃手・河渕巧が捕って二塁へ送球。3アウトかと思われたが、普通なら滑り込む場面で、一塁ランナーの宮坂厚希は二塁を駆け抜けてセーフに。そのまま宮坂が二、三塁間に挟まれる間に、二塁ランナーだった大西拓磨がホームに還り4-1と引き離した。
「あれは相当練習しました。最後の最後であのプレーが出るとは。試合でやるのは初めてだったんですけど、選手は体で覚えていました」と中谷監督。
実は昨年12月にイチロー氏が指導に訪れた際に伝授された技の1つだ。
「イチローさんは『走り抜けるほうが速い』と。あの場面ではとにかくまず二塁がセーフにならなければ何も始まらない。(二塁ベースを)回られると、内野手は難しくなると思う。どうしても回ったランナーに目がいって、『ホームや』というふうにならないでしょ」
8回以降はエース中西が無失点に抑え、4-1でゲームセット。小園から7安打で4得点をもぎ取り、三振は0。ファーストストライクから積極的に振りながら、ボール球はしっかりと見極めた。
小園は、「アウトコースのスライダー、カットボールなど、振ってほしいコースを振ってくれなかった。すごく対策、準備をされてたんだなと感じました。終盤に強く、少しでも浮いた球を逃してくれない」と冷静に語った。