セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
一時「心停止」のエリクセンにインテルやミラン勢もエール… ルカク「アイラブユー!」、“負けても10点満点で9点”キアルの男気とは
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2021/06/14 17:20
インテルでのエリクセンとルカク。キアルらも彼の回復を祈っている
クリスティアンを守れ! あいつを……
クリスティアンを守れ! あいつを好奇の目に晒すな!
グラウンドと世界中の視線が、エリクセンの一点に注がれていた。生死の際という、極めてプライベートな瞬間を満天下に晒されることをエリクセン本人も、スタンドから急ぎ駆けつけ傍らで見守るサブリナ夫人も望むわけがなかった。
目をつぶり、嗚咽しながら選手たちは輪になって壁を作り、エリクセンの救護作業を覆い隠した。心臓に脈動が戻り、担架でグラウンドを後にする間もデンマーク代表選手たちは、少しでも外界からの刺激を和らげようと赤と白の壁になって、チームメイトに寄り添った。
それは国籍や人種、宗教や性別といったあらゆる差異を超えて、"人としてこうありたい"と誰もが思うであろう行動だった。
キアルに与えられた「9点」の意味の大きさ
翌13日、ミラノ2大クラブのご意見番である『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙は、10点満点の試合採点でキアルに「9点」を与えた。同紙の採点基準でいうなら、セリエAの試合でハットトリックを決めても8点がせいぜいだ。9点は数年に1度しか出ない稀に見る高評価、大絶賛といっていい。
デンマークは敗れ、キアル本人は63分限りでベンチに退いた。だが、チームメイトの生死の危機という極限状況で、彼が見せたキャプテンシーと決断力はかくも英雄的だったということだろう。
13日、デンマーク協会はエリクセンの容態を発表した。声明によれば、彼の状態は安定しており意識も明瞭だそうだが、精密検査のため当分入院が続くようだ。
激励は引きも切らない。
エリクセンが運び込まれた王室御用達の総合病院は、試合会場だった「パルケン・スタディオン」から直線距離にして1kmもない場所にある。
デンマーク代表の10番が倒れたとき、スタジアムに集った1万5200人の観客は状況から大事を悟り、彼がスタジアムから運び出されていく様を、固唾を呑んで見守った。
その日一番の歓声は、スクリーンにエリクセンの無事を伝える電光文字が浮かび上がった瞬間のものだろう。
フィンランドのサポーターが、声を揃えて盛大にコールした。
「クリスティアン!」
デンマーク応援団も、負けじと声を張り上げ応じた。
「エリクセン!」
くり返された声援は、世界中の激励とともにエリクセンとその家族に届いたことだろう。