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「何のために生きていけば…」 レスリング須崎優衣が見せた“五輪出場ほぼゼロ”からアジア予選完全優勝の大逆転劇
posted2021/04/20 17:00
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Sachiko Hotaka
試合前になると、須崎優衣はいつも自分の分身と向き合う。中2のときJOCエリートアカデミーに入寮して以来、書き続けているレスリングノート。4月10日(現地時間)、カザフスタンで開催されたアジア最終予選前日も、試合に挑む気持ちや試合でやることなどを書き記した。
「心と頭を整理するためにノートに書き出して、読み返す。そうすることで頭をスッキリさせ、やるべきことを整理する感じです。1日に3ページくらいは書きますね」
かつてはベッドの上に2位に終ったときの賞状を貼り起床したときに悔しさを蘇らせるようにしていたが、いまは手書きのノートを読み返すことが試合前のルーティンになっている。今回はどんなことを書いたのかと水を向けると、須崎は「たくさん書いたので、ちょっと覚えていない」と答えをはぐらかした。
「でも、練習してきたことを出せたのは良かったですね」
「試合勘は気にしなくてもいいのかな」
試合はエントリーした5選手による、総当たりリーグ戦。須崎にとっては一昨年12月の全日本選手権以来、1年4カ月ぶりの実戦だった。緊張がなかったといえば嘘になるが、それよりも「やっと試合ができる」というワクワク感の方が遥かに大きかったという。
「強い思いを持ちながらやるべきことをやり切れば、試合勘は気にしなくてもいいのかなと思いました」
果たして初戦でウズベキスタンの選手を10−0で秒殺すれば、韓国の選手との一戦も11−0でシャットアウト。続くインドの選手との一騎討ちは第2ピリオドまでもつれ込んだが、最後は 10−0のテクニカルフォールで勝利を収めた。
白眉はこの一戦で強烈な股割きを見せフォールに対する執着を見せたことだろう。現在女子レスリングのグラウンドといえばアンクルホールドやローリングなど対戦相手を回転させることで点数を積み重ねていく戦法が主流。股割きは伊調馨が使う程度で、ここ数年20代の選手が使った場面は記憶にない。
温故知新。なぜこのクラシカルなテクニックを使ったのかと水を向けると、須崎は「練習していたので使ってみました」と答えた。
「ワンチャンスを確実にモノにするということを意識して取り組んできました」