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羽生結弦と一緒に被災、アイスリンク仙台支配人が今でも「羽生君が希望の光」と語るワケ「自分が勇気をもらいたいだろうに…」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2021/03/11 11:05
コロナ禍の影響を大きく受けるアイスリンク仙台。羽生結弦の活躍を希望に苦境を耐え抜こうとしている
「今年もコロナ禍が続くのなら、我々も厳しい」
現在、アイスリンク仙台は再び危機に直面している。新型コロナウイルスにより、昨春は一般営業を休止。'20年の入場者数は例年に比べ、大きく落ち込んだ。
「営業時間短縮や利用者数を制限していることもありますが、例年の半分くらいです」
毎年、活況を呈す12月は8000人ほどの利用者が見込まれるが、'20年は例年より「マイナス3000人強」と厳しい数字だ。大きな収入源も失われた。
「仙台市内の小学校にはスケート実習があります。小規模の学校で実施したところもありますが、だいたいはなくなってしまいました」
「耐えるしかありません」と語りつつ、在家は重たい口調で続けた。
「今年もコロナ禍が続くのなら、我々も厳しい状態になる」
田中の表情からも笑顔は消えた。
「マスクをして滑るなどやるべきことをそれぞれがやっていく、そこをきちんと取り組んでこそ選手ですし、それがひいてはみんなのためになる」
「羽生君はここの、私たちにとっての希望の光です」
リンクを続けていくためにも感染しない、させないことが大切になる。だから羽生の言葉の重さも改めて実感する。
「コロナの対策をしっかりやろう、感染を広げないようにしようと自分たちが話していても限度がある。ただ、彼が発信すれば、世界に伝わる。震災のときも、今もそう。彼は絶対に光は見えると勇気を与えている。ほんとうは結弦自身が勇気をもらいたいだろうに、えらいなと思うと同時に大変だろうなと思います」
在家は、こう自分を奮い立たせた。
「現在、東北で通年営業のリンクはうちと盛岡と八戸の3つしかありません。ですから夏季などには近県からもここに練習に来ます。なくなると東北にとって大きなダメージです。なんとしても存続させたい。金メダルが3つも出たリンクなんてほかにありませんし、次のメダリストを出せるよう、耐えしのぎながら、みんなを笑顔で迎えられる施設として続けたいです」
そう言って少し微笑むと、続けた。
「羽生君はここの、私たちにとっての希望の光です。テレビを通じてでも感謝を伝えてくれているなと感じるし、我々も励みになる。そういう意味で希望の光なんです」
震災の日の夜、羽生は夜空の星を希望の光と捉えたという。今、アイスリンク仙台を支える人々は、羽生という星に希望の光を見ているのだ。