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箱根駅伝、リタイアしたエースは何を語るか「もういいからやめなさいと」「神さまからの天罰じゃないか」…
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph byAFLO SPORT
posted2021/01/03 06:01
途中棄権だけでなく繰り上げスタートなど、箱根駅伝には悲劇性が詰まっている
<名言2>
神さまからの天罰じゃないかって。
(中村祐二/Number Do 2013 Winter 2012年12月20日発売)
◇解説◇
徳本の衝撃的な大ブレーキからさかのぼること6年前、1996年1月2日。新春のお茶の間は凍り付いた空気になった。
「世界の中村が止まっています!」
実況アナウンサーが思わず叫んだ。山梨学院大の往路4区を任された中村は、社会人を経て大学に入り直した遅咲きのランナーだった。95年には世界選手権にマラソン日本代表として選出されるなど、日本人屈指の実力を持っていた。
そんな中村が、まさかの“大ブレーキ”に陥ったのだ。
上田誠仁監督の説得を振り切って走り続けようとした中村だが、顔をゆがめ、足を引きずる様子はどう考えても正常な状態ではなかった。最下位に落ち、見かねた審判長からリタイアを勧められて、12.4km過ぎで襷が途絶えたのだ。
「当時の私は完璧主義なところがあって、世界選手権の前にケガをしたことが許せなかった。それからずっと調子が上がらないまま……でも箱根には出るしかない。直前にまた足を痛めた時点で終わりとまでは思ってないですけど、リタイアした時にやっぱりなと。後ろ向きな気持ちを見透かされていたんです」
当時について中村はこのように語っている。チームは当時箱根3連覇を目指しており、中村は必須のピースと見られていた。しかし大みそかの朝、中村は最後の調整でアキレス腱を痛めていた。出場を強行した中村に対して、一部の控え選手はケガを隠したエースを責めたという。
「中村が走ってダメなら仕方ないよ。チームメイトはそう思ってくれるはず……。認識が甘かったんです」
箱根への思いの熱さが、生んだ悲劇だった。
それでも中村はめげなかった。翌年、丸刈り頭となった中村は2区を任されると、8人抜きの区間賞で意地を見せたのだった。