西武ライオンズでの2年目に戦力外通告

「いや、うれしいんですよ。こうやってみんなで集まってクリケットをやれるのが」

　そう言って、したたり落ちる汗を気持ち良さそうに拭った。

　プロ野球時代、俊足、堅守、巧打で鳴らしたユーティリティープレーヤーは西武ライオンズでの2年目となった2017年シーズン後に戦力外通告を受け、12球団合同トライアウトでも他球団から声は掛からなかった。

「10億円プレーヤーになる！」

　現役にこだわるなら社会人野球や独立リーグの道もあった。だが彼は知人を介してクリケットの存在を知り、「違う分野でのアスリート」というセカンドキャリアを選択した。

「10億円プレーヤーになる！」

　小学校の卒業文集でつづった夢を、まだあきらめなくていいと思えた。

　イギリス、オーストラリア、インド、スリランカを含め各国で熱狂的なファンの多いクリケットの世界には、スポンサー料なども含めて30億円を稼いでいるトップオブトップ選手がいるとも聞いた。

　世界最高峰と称される「インディアン・プレミアリーグ」（IPL）のプレーヤーになってみせる。10億円プレーヤーになるという夢に向かって登るルートを変えるにすぎない。

「クリケットと野球は似て非なるスポーツなんです。打ち方も戦略もほとんどすべて。ちょっとでも油断をすると、自分のなかで“野球の木村昇吾”が出てきてしまう。

　30年やってきたから体に染みついているし、仕方ないところはあるんですけど、どんなときでも“クリケットの木村昇吾”が出てくるようにならないといけない」

　野球と同等、いやそれ以上に本気をぶつけてきた自負はある。

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