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井上尚弥はマロニーをどう崩す? ラスベガスで「夢のファイトマネー」と4団体統一の道へ
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2020/10/31 11:01
約1年ぶりの試合に臨む井上尚弥。聖地ラスベガスで“モンスター”級の強さを見せつけられるか
「あの試合はいまでも良くなかったと思っている」
優位が伝えられるチャンピオンはそんなマロニーをコツコツと崩していこうと考えている。コツコツとは井上らしくないのでは?と思う人もいるかもしれないが、井上は早いラウンドでKOしていても、常にコツコツいこうと考えてリングに上がってきた。つまりはKOまでのプロセスを大事にするということだ。
そのことを再確認した試合が米国デビュー戦となった17年9月、アントニオ・ニエベス(米)を迎えたWBO世界スーパー・フライ級王座の防衛戦だった。このころすでに“モンスター”のウワサは米国関係者にもかなり伝わっており、井上は「いいところを見せなければいけない」という使命を感じていた。
結果は一方的に攻め続けての6回終了TKO勝ちながら、大橋会長が「あの試合はいまでも良くなかったと思っている」と振り返るように、何が何でも倒してやろうという力任せのボクシングは井上が追い求めるそれとは大きな開きがあった。
その反省は今でもしっかり生き続けている。足を動かしながらジャブを打ち、距離を測って右、ボディブローにつなげていく。ニエベス戦後の4試合はいずれも3ラウンド以内に試合を終わらせているが、あくまでプロセスを大事にするのがモンスターの身上。ディフェンスがよく、タフネスとガッツを兼ね備えたマロニーが相手だけに、技術で崩し、後半に仕留めるという理想のスタイルが今回こそ見られるかもしれない。
絶対はない。あえて不安材料も…
あえて不安材料も上げてみよう。およそ1年ぶりの試合であること、前回のノニト・ドネア(フィリピン)戦で負った眼窩底骨折が癒えて初の試合であること、海外からスパーリングパートナーを呼べず、コロナ禍もあって今までとは違う調整を強いられたこと、初めての無観客試合であること。ドネア戦のように試合中に何らかのアクシデントに見舞われることもあるかもしれない……。もし“万が一”が起きれば、これらが番狂わせの要因として上げられることになるだろう。
ボクシングに絶対はない。それでもなお、最大の武器とも言えるブレないハートを持つチャンピオンが泥沼にはまって動けなくなるとはどうしても想像できない。
井上は来年、真の世界一の証といえるバンタム級4団体統一を目指している。そして今回、ラスベガスでいい試合をすれば、世界におけるモンスターの人気と需要はさらに高まるだろう。圧巻、激闘、巧妙、苦闘、驚愕――。試合を終えてどんなフレーズが与えられようと、いまや井上のファイトは1試合、1試合が新たな歴史の創造だ。