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【日本ハム ドラフト1位】道産子“大卒”で史上初のドラ1 「タコ漁師の息子」苫小牧駒澤大・伊藤大海の“さみしさ”
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
posted2020/10/26 17:45
ドラフトの有力候補、苫小牧駒澤大・伊藤大海投手(4年・右投左打)
なぜナックルカーブを本番で使わないか
イニング間の投球練習では、本人が密かに磨いているナックルカーブも投げておいて、相手に「あるぞ……」と見せておきながら、本番になると使わない。使わなくても、打者の意識の中にはちゃんと残してあるので、使っているのと同じ。どこで覚えてきたのか、打者の心理まで操って、ニクい投球術を心得ている。
カーブを「見せ球」に取っておいても、速球に強弱をつけながら、カット、スライダーをカウント球にも、勝負球にも使えるから、投球のバリエーションはそれだけで十分だ。
伊藤大海の投球を何度も見ている北海道担当のスカウトたちに訊いてみても、誰もが「今日がいちばん!」と口を揃える。最後の秋の優勝のかかった一戦。そんな「大一番」でベストピッチをやってのける……こういうのを「底力」と言うのだろう。
「エースで、キャプテンで、歳も1つ上」
エースがこんなに奮投しているのに、打線が点を取れない。
函館大の先発・枯木匠登(2年・179cm75kg・右投右打)も、「ドラ1候補」を向こうにまわして、一歩も退かない。
テークバックが思いきり背中側に入る戸郷翔征(巨人)タイプのフォームだから、右打者は頭の方にボールが飛んできそうで踏み込めない。外を突いてくる速球、スライダーに手打ちになって、ランナーを出しても併殺でチャンスを逃す場面が二度、三度。
イヤな流れを断ちきれないまま、0対0で試合終盤にもつれ込み、とうとうエラーもからんで、苫小牧駒大、敗れてしまった。
頭一つ半か、もしかしたらそれ以上飛び抜けた才能と実力を持った選手が、チームにただ1人……それも、エースで、キャプテンで、歳も1つ上。伊藤大海は、東京の駒澤大に1年在籍してから、苫小牧駒大に入学していた。
「大海は確かにすばらしいピッチャーだけど、あくまでもチームの中の一人。ウチは、<伊藤大海>のチームじゃない」
大滝敏之監督は繰り返しそうおっしゃっていたが、この日の苫小牧駒大の打者たちは、自分たちの偉大なチームメイトのために、なんとか点を取ろうとして、逆にスイングに思いきりを失い、勝負どころの試合終盤では、体の自由を失ってエラーを招いてしまった。私には、そんなふうに見えていた。
「エースとしてふさわしい人格を持っている人間が投げているのかどうか……投げるボール以上に、“そこ”を大切にしないと……」
取材の語りの中で、伊藤大海の目がギラッと光った瞬間だ。