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注目はマスクだけではない。大坂なおみ、コーチが明かす中断期間の“意外な”取り組み。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byUSA TODAY Sports/AFLO
posted2020/09/04 08:00
2回戦突破後、マスク姿ながら充実した表情の大坂なおみ。オンコートでのメンタルにも注目したい。
「世界の人々に知ってほしい」2人目。
入場時のマスクには、大坂が「世界の人々に知ってほしい」2人目の名前が書かれていた。
「彼の名はジョージ・フロイドやブレオナ・テイラーのようには世に出ていないと思うの」
ELIJAH MCCLAIN――昨年の夏、警官による取り調べ後に死亡したという23歳のその黒人男性の悲劇と、やさしい性格などについて大坂は語ったが、その名を一度でも聞いたことがあるという日本人がいったいどれほどいるのだろう。
そして、大坂が望む通りに、私たちは便利なインターネットを使って実に簡単にそのストーリーをかいつまんで知ろうとしている。それがたとえ上辺だけの情報だとしても、大坂は「こういう方法で彼のことを紹介できた特別な日になった」と語る。
これまでも、これからも、大坂にとって一戦一戦がこうして特別なものになっていくのだろう。それが今大会で勝ち進む大きなモチベーションであることは大坂も認めている。しかし、高いパフォーマンスの理由はそこだけに絞れない。
「いつだってコートに入るときは、試合のこと以外は頭にない。オフコートでのことも私にとってこの大会でがんばるモチベーションになっているけど、練習だけの期間が長かったから、今は試合が楽しい。もっと強い選手になるには何ができるか、勝つためには何をすればいいかを考えている」
コーチが語る自粛期間の出来事。
練習期間は退屈だったように聞こえるが、こうして試合の楽しさを実感できているのは、ハードな練習をこなしてきたからこそだ。
ひょっとしたら私たちは、コート外の活動に熱心で、ファッショナブルな生活や恋人との時間をSNSで頻繁に発信していた事実から、自粛期間中の練習不足を勝手に想像していたのかもしれない。先週のウエスタン・アンド・サザン・オープンでフィセッテ・コーチは記者会見に応じ、こう話した。
「なおみは試合をするのが好きだけど、この期間であらためて自分がどれだけテニスを好きか気付いたし、練習さえも好きなことに気付いたんじゃないかな」