球体とリズムBACK NUMBER
なぜセビージャは“EL名人”なのか。
強烈な団結力とロペテギの男泣き。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2020/08/22 20:00
ロペテギ監督(中央)のもと、インテルとの激しいセットプレー合戦を制したセビージャ。UEFA杯を含むと通算6度目の“欧州制覇”だ。
ナバス、デヨング、バネガが仕事。
そんな天文学的な予算を持たないセビージャは現実的に狙えるタイトルに照準を定め、見事にそれを手に入れた。ただし、彼らには5度の優勝経験があるとはいえ、過去の栄光を肌身で知る者は現チームにほとんどいない。オフには2年ぶりに復帰したモンチSDの主導のもと、戦力の大刷新が敢行されていたからだ。
そんな新チームを1年目のジュレン・ロペテギ監督が見事にまとめ上げた。
この日の決勝でも、マンチェスター・ユナイテッドとの準決勝と同様に、開始早々に相手に先制を許した──形も同じく、CBディエゴ・カルロスが相手FWを倒して与えたPKからの失点だ。ファウルを受けたロメル・ルカクが自ら左に決め、今大会の出場全試合で連続ゴールを記録している。
しかし劣勢にもまったく動じないセビージャは、その後も主導権を握ってボールを動かし続け、12分には主将のヘスス・ナバスが右から上げたクロスに、ルーク・デヨングが頭を合わせてすぐさま同点とする。準決勝で途中出場から逆転ゴールを挙げた29歳のオランダ代表FWは、決勝では先発に抜擢され、同点ゴールで早くもその期待に応えると、33分にも再び得意のヘディングでネットを揺らした。
10番の司令塔エベル・バネガが自ら奪ったFKを中央右から前方に入れると、大外でマーカーより頭ひとつ抜け出したデヨングが決めて、セビージャが逆転。しかし直後に、インテルも数分前のデジャヴのようなFKからディエゴ・ゴディンが頭で決めて、スコアは再びタイに。
ディエゴのオーバーヘッドが……。
後半もセビージャがバネガを中心にポゼッションで上回りながらも、インテルは逆襲から相手ゴールに迫る。65分にはルカクがGKボノとの1対1を迎えたが、準々決勝でPKを止め、準決勝でユナイテッドの猛攻をしのいだモロッコ代表GKに阻まれた。
するとその10分後に、決勝点が生まれる。ナバスが右サイドで倒されて得たFKをバネガが入れると、DFがクリアし損ねて浮き上がったボールに、待ち構えたディエゴ・カルロスがオーバーヘッドを合わせる。
シュートはゴール枠を外れていきそうだったが、そこにルカクが足を出して、まさかのオウンゴールを献上してしまった。試合を通してルカクに手こずっていたディエゴ・カルロスが、最後にそのライバルに土をつけた形だ。