Number ExBACK NUMBER
“ポジティブ原理主義”には弊害も。
専門家が語るアスリートの心問題。
posted2020/07/20 15:00
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph by
Getty Images
鍛え上げられた肉体、限界に挑み続ける精神力……。「アスリート」の「メンタル」を語る時、誰もがイメージするのはバイタリティに溢れた揺るぎのない「強さ」ではないだろうか。
例えばサッカーの本田圭佑はピッチ上でも、ピッチ外でも自信に満ち溢れている。メジャーリーグ・カブスのダルビッシュ有は、プレーだけでなくSNS上でも実に堂々と持論を展開し批判や中傷にも屈しない。
五輪の名場面を振り返っても、競泳の北島康介、レスリングの吉田沙保里などは常に「勝ってみせる」と宣言し、実際に金メダルをつかみ取る『有言実行』のスタイルだった。
一方で、近年トップアスリートが「心の病気」を公にするケースが増えている。競泳のマイケル・フェルプスやサッカー元スペイン代表のアンドレス・イニエスタは「うつ病」との戦いを告白。日本でも元Jリーグ広島の森崎和幸・浩司兄弟がうつ病であることを公表し、プロ野球でも「不安障害」や「自律神経失調症」などを明らかにする選手が出てきた。
強さの呪縛が解けつつある?
では、スポーツ界で実際に「メンタルの不調」は増えているのだろうか。法政大学文学部教授で、スポーツ心理学を専門とする荒井弘和教授はこう推測する。
「『メンタルの不調を抱える人が増加している』という市民のデータがそのまま当てはまるとすれば、アスリートにも同様に増えているという面はあるでしょう。ただし、それ以上に、公表しようというアスリートが増えてきたということに意味があると思います」
つまり、アスリートは心身ともに常に「強く」あり続けなければいけないという“呪縛”が解け、ありのままの姿を見せられるようになりつつある、ということだと荒井教授は解説する。
「その背景には、指導者を含めたアスリートを取り巻く環境が変化しているという要因もあると思います。~~のことで悩んでいる、うつ病である……そういうことを言っても許される雰囲気が世間で醸成され、指導者の世代交代によってそういった選手の気持ちを受け止めてくれる方々増えてきていると思います」