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井上康生は無敵のヒーローだった。
2003年、世界選手権の「背中」。
text by
田中慎一郎Shinichiro Tanaka
photograph byShinichiro Tanaka
posted2020/06/23 17:00
オリンピックで1度、世界選手権で3度の金メダルを獲得した井上康生は、まさに最強の名にふさわしい柔道家だった。
引退、そして監督としての偉業。
井上康生はその後、2004年アテネオリンピックの準々決勝で敗れて連覇を逃し、2008年に北京オリンピック代表選考を兼ねた全日本選手権準々決勝で敗れて引退した。
そしてスコットランド留学の後、2012年ロンドンオリンピック惨敗の後を受け全日本男子の監督に就任。迎えた2016年のリオデジャネイロオリンピックで、日本勢は金メダル2個を含む7階級全てでメダルを獲得し、低迷が続いていた男子柔道を復活に導いた。
日本代表男子が全階級でメダルを獲得したのは、柔道がオリンピックに採用された1964年東京オリンピック以来、52年ぶりのことだった。
いつか指導者としての背中を。
彼が指導者になってから一度だけ、東海大学での全日本合宿を取材をしたことがある。久々のファインダー越しの「再会」に心躍り、インタビューの撮影に集中した。
報道陣に囲まれた井上康生は、選手の精神的な成長を一番に考えているようだった。その話は機知に富み、高僧の説法のようでもあった。
惜しむらくはファインダー越しの「説法」の中身はすっかり記憶に残らなかったことである。
撮ることに夢中で「それらしい話」としか記憶に残っていない。
また彼の話を間近で聞く機会があったら、今度はしっかりと記憶に刻みたい。そして、指導者としての絵になる背中をまた撮ってみたい。