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入江陵介、幻の世界記録とその後。
強さは「水着ではなく人」を証明。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byMark Nolan/Getty Images
posted2020/05/10 09:00
2009年5月10日、背泳ぎ200mで当時の世界記録を上回り、ガッツポーズを見せた入江。しかし、水着が認可されず記録も公認されなかった。
「外に出たくない」と思うほど失意に沈んだ。
入江はその前年の北京五輪に出場していた。200mは世界ランク3位ということもあり、メダル候補と期待を集めていた。
周囲の視線、そして「僕のレースまでに、(北島)康介さんや松田丈志さんがメダルを獲られて、自分も獲らなければ、という気持ちが強かった」という自身の気持ちもあった。
それがためか。迎えた決勝のレースは――。
「力みもあったし、それまで自分より速い選手と泳ぐ機会もあまりなかったこともあります。ペースがみんなばらばらで、波もすごくて、自分のレースができませんでした」
5位で終えた。北京から帰国したあとは、人と顔を会わせるのが辛くて「外に出たくない」と思うほど失意に沈んだ。
そこから再起しての2009年だった。
泳ぐのは水着ではなく、あくまでも選手。
水着騒動の渦中に投げ込まれて、それでも自分を見失わず、しっかり準備をして結果を手にした世界選手権は、一度落とされて、そこから這い上がったからこその強さがあった。
泳ぐのは水着ではなく、あくまでも選手であることをあらためて証明する泳ぎでもあった。
入江は2012年のロンドン五輪に出場、100mで銅メダル、200mと4×100mメドレーリレーで銀メダルを獲得。
2016年のリオデジャネイロで3大会連続五輪出場を果たしたあと、単身、アメリカに渡り、新たな環境で練習に取り組んできた。
長年慣れ親しんだところから変えるのは、ベテランならなおさら不安もあっただろう。それでもチャレンジする道を選んだ。
昨年の世界選手権では100m6位、200m5位となるなど、日本背泳ぎの主軸としての活躍を見せ続け、東京五輪を目指している。
今なお損なわれずにいる強さの源の1つとして、2009年もきっとある。