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今のなでしこ、ラピーノーどう思う?
ブラジルの伝説マルタが語り尽くす。 

text by

沢田啓明

沢田啓明Hiroaki Sawada

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photograph byHiroaki Sawada

posted2019/12/29 09:00

今のなでしこ、ラピーノーどう思う?ブラジルの伝説マルタが語り尽くす。<Number Web> photograph by Hiroaki Sawada

女子サッカー界のレジェンド、マルタ。現状と日本サッカーへの印象を忌憚なく語ってくれた。

王国でも偏見は根強かった。

「フットボール王国」ブラジルで、なぜそんなことが起きるのかって?

 それは、「フットボールは男のもの」という観念が強いから。女の子がやるべきスポーツはバレーボールやバスケットボールであって、フットボールじゃない。伝統的にそう思われていて、私が生まれ育ったような田舎では特に偏見が強かった。

 でも、ある日、神様が私に幸運を授けてくれた。

 14歳のとき、リオの女子チームの入団テストを受けて合格した。すぐにチームの中心選手になり、16歳でセレソンに初招集された。そして、2004年、スウェーデンの強豪クラブ(ウメオIK)へ移籍し、2003~04シーズンの欧州CL決勝で2試合で3ゴールを決めて優勝したの。あれで、プロ選手としてやっていけるという自信がついた。

 2006年、初めてFIFA年間最優秀選手に選ばれたときは体がブルブル震え、嬉し涙が止まらなかった。その後、2010年まで5年連続、そして昨年も選ばれているけれど、嬉しさと感激は初めて受賞したときと全く変わらない。

 田舎の貧しい家庭に生まれ、空腹を抱え、周囲の偏見とも闘いながら毎日ボールを蹴っていた頃の私に「あなたは将来、こうなるよ」と言っても、絶対に信じなかったはず(笑)。

 ただ、念願のプロ選手になってからも、悔しいことがたくさんあった。その最たるものは、五輪で2回、W杯で1回、合計3回も決勝に出たのに一度も優勝できなかったこと。

 ブラジルでは「準優勝は最下位と同じ」と思う人が多く、優勝以外はほとんど評価してもらえない。国際大会で1回でも優勝していたら、女子フットボールがもっと注目され、組織が整い、レベルも向上して二度、三度と優勝していたかもしれない。そう思うと、本当に残念なの。

私にとってのベストゴール。

 私のこれまでのベストゴール? それは、2007年W杯準決勝アメリカ戦(ブラジルが4-0で圧勝)の4点目でしょう。

 左タッチライン沿いで大柄なDFを背負った状態でパスを受け、左足でボールをマーカーの左側に通しておいて自分は時計周りにターンし、ボールを拾ってドリブルを始め、さらに別の選手をかわして右足でニアサイドに決めた。

 正対するマーカーの片方にボールを通してその逆側を通り抜けるプレーをブラジルでは「ドリブレ・ダ・ヴァッカ」(牛のドリブル)って呼ぶんだけど、それを後ろ向きでやったというわけ。

 どうしてあんなプレーができたのか? それは私にもわからない(笑)。頭で考えたんじゃなくて、気がついたらやっていた。その後、同じプレーは二度としていない(笑)。

【次ページ】 ラピーノーの主張は正しい。

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#ミーガン・ラピーノー

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