相撲春秋BACK NUMBER
小学生タイトルで3冠達成!
わんぱく横綱の「一瞬の夏」。
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph bySumie Toyoda
posted2019/08/20 17:00
荒磯親方(元稀勢の里)から横綱土俵入りの指導を受けた重村鴻之介君(親方右)と、太刀持ち役を務めた豊田倫之亮君(右端)。
「なんで飾るの? しまっておいて」
思い出すのは、昨年の「全日本小学生相撲優勝大会」でのこと。共に出場し、決勝戦でのふたりの直接対決もありや――との下馬評のなか、重村君は準決勝で敗れ、豊田君が優勝。大会終了後、両家族揃っての打ち上げの席に同席させてもらった筆者が、興に乗り、卓上に優勝トロフィーを飾ろうとすると、豊田君にたしなめられてしまったことがある。
「なんで飾るの? しまっておいて」
豊田君の母がこっそりと耳打ちしてくれた。
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「きっと重村君に、本人なりに気を遣っていると思うんです……」
その言葉に我が不明を恥じ、そして感じ入ることとなる。土俵をひとたび下りれば、小熊がじゃれ合うように遊んでいるふたりなのだが、そう――すでに勝つ喜びも負ける悔しさも十二分に知っている“11歳の勝負師”なのだった。
たった数秒の土俵に懸ける勝負。
来年は、小学校生活最後の夏を迎える。
はたして豊田君と重村君の、どちらが“小学生版 相撲甲子園”の土俵に立つのだろう。わずか4メートル55センチの土俵での、たった数秒の勝負。この一瞬のために、ふたりは東京から遠く離れた灼熱の南の島で、今日も四股を踏んでいる。
涙と笑顔に溢れた一瞬の夏は、いつしか永遠の想い出となる。