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22年前、イチローが松坂大輔から“狙って100号ホームランを打った理由”「あれくらいで確信なんて早すぎるんだよ」 

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石田雄太

石田雄太Yuta Ishida

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posted2021/07/09 17:03

22年前、イチローが松坂大輔から“狙って100号ホームランを打った理由”「あれくらいで確信なんて早すぎるんだよ」<Number Web>

記念すべき100本目のホームランを、松坂大輔から放っているイチロー

「イチローにはインローにスライダーを入れたら、打たれます。とくにタテに入ってくるスライダーにはバットの軌道が合った。曲がり際はとくに飛距離が出るんです」

 だから中嶋はスライダーを外角へ投げさせ、ストレートは高めに投げさせた。

「あの頃の大輔のいい球というのは、左バッターでいうアウトハイにシュート回転で上がってくるボールだったんです。大輔がメジャーに行ったとき、ジャイロを投げるって騒がれたじゃないですか。シュート回転というとイメージはよくないけど、あれがジャイロだったのかな、そういう回転に当てはまるのかなと思います。

 とにかく誰も投げていない回転のボールでした。独特の、強い回転……イチローは低いボールが好きだったし、空振りを取るなら高めのまっすぐのほうがいいと考えたんです。ただ、あれを意図的に投げていたのか、たまたまなのか、そこはわかりません。もし意図的に投げてあの球を武器にできていたとしたら、大輔、すげえな、という話です」

「じつはイチローが空振りするとは思わなかった」

 イチローの弱点がアウトハイの速い球だったからではなく、松坂の長所がその球で活きたからこそのピッチャー主導のリードは、中嶋ならではだった。

「初対戦ですし、イチローがすごいのはわかってることなので、とにかく大輔の一番いい球を投げさせてみてどうなるかというのが最初じゃないですかね。でも、じつはイチローが空振りするとは思わなかったんです。『えっ、これを空振りするのか』って思いながら捕ったのを覚えています。当然、当ててくるし、前へ飛ばすと思っていました。それが、バットがボールの下を通った……イチローにしてみればイメージと違うボールだったんでしょうね。イチローが泳ぎながらまっすぐを空振りするところなんて、見たことがなかった。スッときた球に、アッという感じ。大輔のまっすぐのこの軌道は使えるなと思いました」

 第2打席、今度はスライダーから入った松坂。2球目もスライダーが続き、イチローは球筋を見極めようと見逃す。すると3球目は一転、151kmのストレート。怪物が天才をまたも追い込んだ。そして6球目、アウトコースから曲がってくるスライダーに、イチローはバットを出すことができず、見逃しの三振。中嶋が言った。

「大輔の投げるスライダーは、軌道が読みづらいんです。グッと曲がってくるときもあるし、曲がらずにそのままスッとくるときもある。曲がるときはすごく独特の角度で曲がってくるんで、いかにイチローと言えども最初の対戦で大輔のスライダーを初めて見て、いきなりバチーンと打つというイメージは持っていませんでした。しかもやられた球は絶対に打ったろうというのがイチローなんで、1打席目、まっすぐで三振を取られていますから、2打席目は間違いなくまっすぐ狙いやろうな、と……」

【次ページ】 2度目の対決 松坂にイチローとどう勝負させた?

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