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バスケ育成年代の指導者が考える、
10代アスリートへの理想の指導とは。
posted2019/06/10 08:00
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Kiichi Matsumoto
Number925号(2017年4月13日発売)の特集から全文掲載します!
諭す。いや、違う。問いかけ、子供たちの反応を引き出そうとしている。
女子バスケットボールの日本代表、アンダーカテゴリー(10代の選手たちの代表)でヘッドコーチを務める萩原美樹子さんはその日、U-16の少女たちに質問して、質問して、考えさせた。「どうして?」という問いかけが何度もコート上に響く。ティーンエイジャーは多感な世代。言葉のニュアンスひとつで、受け取り方も変わる。
「思春期ですからね。自己否定感が強い選手もいます。『強くドリブルして!』と大声で言うと怒られていると勘違いしてしまったり。そういう時は否定しているわけではないと伝えて、『強くドリブルしよう!』というアプローチを取ったりもします」
萩原さんは'96年のアトランタ五輪に出場し、'97年に日本人初のWNBA選手となった。引退後は歴史を学ぶために早大の文学部に入り、その後は早大女子バスケ部のコーチとしてインカレを2度制覇した。
“足りている”世代との向き合い方。
早大のヘッドコーチ時代、彼女のコーチングは熱かった。ある試合のこと、リードしながらも緩慢なプレーを見せた選手たちに、「あなたたちは、勝とうとしているようには見えない!」と円陣の中で吠えた。ドキッとした。タイムアウト明け、選手たちは見違えるようなプレーを見せた。
「そんなこともありましたね(笑)。でも、今はひとつのチームを預かっているのではなく、選抜チームで選手を育成していくのが主眼なので、アプローチも変わってきます。ジュニアの代表から、2020年の先、将来の日本代表を育てることが大切です」
若い選手と接するにあたって重要なことは何か。アドラー心理学に則していうなら、課題に立ち向かう勇気、「勇気づけ」だ。しかし、指導者が育ってきた時代や環境と今の10代とでは天と地ほどの差がある。
「10代の選手たちは、“足りている”世代です。私たちの世代は、大きくなったらもっと美味しいものをたくさん食べたいとか、いい洋服を着たいとか欲求があって、それを手に入れるための努力を厭わなかった。でも、今の子供たちは、すでに何もかもが揃っている。パソコンとスマホを使えば、翌日には家に欲しいものが配達されます。そうした環境で育ってきた選手に対する勇気づけ、動機づけはたしかに難しいです」