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佐々木朗希「163km」の一部始終。
球場は静まり、別の武器も披露。 

text by

安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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photograph byBFP/AFLO

posted2019/04/09 11:30

佐々木朗希「163km」の一部始終。球場は静まり、別の武器も披露。<Number Web> photograph by BFP/AFLO

U-18野球日本代表合宿でものすごいボールを投げ込んだ佐々木朗希。この高校生、ただ者ではない。

昨夏の県予選から予感はあった。

 出てもぜんぜんおかしくない……そう考えていたのにはワケがある。

 昨年夏の岩手県予選だ。

 初戦に先発した当時2年の佐々木投手は立ち上がりから「154」と、とんでもないスピードを続けざまにマークしてみせた。

 その頃の佐々木投手の投げっぷりには“力感”というものがなかった。流れるような全身の連動の最後にサッと腕を振って、それで154。それが、ひと冬越した今日はちょっと違っていた。

 マウンドに上がる前のブルペンのピッチングを見て、アッと思った。力を入れて投げている。いや、それでは表現が違う。力を入れて投げられるようになったのだ。

 スカスカだったユニフォームのズボンを、内側から圧するような筋肉がついてきている。左ヒザが胸につくほど高く上げても、上体が真っ直ぐに立てているボディーバランス。力を入れて、エイッと腕を振ってもバランスをキープできる下半身の安定感。夏にはなかったものがいくつも加わっている。

 これなら「160」出したって、ぜんぜんおかしくない。この日の紅白戦前、ブルペンのピッチングを見て、そんな予感がもうしていたのだ。

変化球とコントロールもすごい。

 ただし、佐々木朗希のすごさは「163」だけで語られてはいけない。

 今までの彼からは決して見られなかった、新しいすごさ。そこを見逃してはならない。まず、変化球の動きとそのコントロールだ。

 本人は「思うように投げられなかった……」と不満そうだったが、なかなかどうして、スライダーにチェンジアップ、フォークまで投げていたように見えた。「国際試合規格」の慣れないボールを使っていたのに、明らかな投げ損じの変化球はほとんどなかったし、指先から高く抜けた速球も見たかぎり1球もなし。

 そして捕手のサインに4回首を振って、ストレートかと思ったら、フォークで空振りの三振を奪った場面である。ストレートで追い込んだ後、自分でプランを立て、その通りの“筋書き”で抑え込んでみせる。

 それは、次の1球、目の前の1人を打ち取ることでいっぱいいっぱいだった昨秋までには見られなかった頼もしい姿だ。

【次ページ】 クイック、牽制、ストーリー性。

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佐々木朗希
大船渡高校

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