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ウッズの優勝はすべての人の記憶に。
5年分の期待と歓喜が詰まった1日。
text by

舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byGetty Images
posted2018/09/26 12:00

タイガー・ウッズの優勝を多くの人が間近で見届けた。もはや幻想的な光景だった。
ウッズの優勝争いを初めて見た世代も。
長年、ウッズを応援してきた古くからの大勢のゴルフファンも、おそらくはみな同じように、かつてのウッズ・フィーバーを再現させながら、強いタイガー・ウッズのカムバック感に酔いしれていたのだと思う。
勝利を狙うウッズへの大観衆の狂喜と熱狂ぶりを、このとき初めて直に味わっていた新しいゴルフファンや若い世代、そして子供たちは、「ウッズ・フィーバーって、こんなにすごいんだ」という新鮮な驚きを五感で噛み締め、それは衝撃的なメモリーとして彼らの体の中にインストールされていったに違いない。
歴史に残る日となった2018年9月23日。ウッズ復活優勝へのファイナル・ランは、そうやって始まった。
「僕のマッスル・メモリーが覚えている」
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昨年4月に4度目の腰の手術を受け、戦線離脱を余儀なくされたウッズが、戦いの場に戻ってきたのは今年1月だった。
復帰早々の3月から次々に優勝争いに絡み、6度もトップ10入りを重ねたが、どうしても勝利には手が届かなかった。一時は単独首位に立った全英オープンでは6位に終わり、全米プロでは2位、プレーオフ第3戦のBMW選手権では6位。
元王者とて、いや元王者だからこそ、5年ぶりの復活優勝を目前にすると緊張やプレッシャーで平常心を失ってしまうのではないか? もはや勝ち方を忘れてしまっているのではないか?
今年のツアー選手権で初日から首位を守り通してきたウッズは、3日目の夕暮れどき、米メディアからそんな質問を投げかけられた。
「今年の6度の優勝争いのとき、いつもとは違うアブノーマルな感覚は、ただの一度も味わわなかった。たとえ数年ぶりであっても、僕の“マッスル・メモリー”が優勝争いを戦う感覚を覚えているんだと思う。だから優勝争いに身を置くことは、今でも心地いい」
ウッズの体、ウッズの五感には、勝利を目指すというアスリートの本能にも似た感覚が、強く、そして心地良く、刻み込まれいる。
ツアー選手権最終日。ウッズは自身の五感を信じ、復活優勝へと走り始めた。