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レアルの日本人社員だった男。
酒井浩之「実は言うほどお金がない」
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byYuki Suenaga
posted2018/09/05 17:00
外から見るか中から見るかで、レアル・マドリーの印象はどうやら大きく違うらしい。酒井氏はその実情を知る唯一の日本人と言ってもいい。
3億円もらったら、30億円分返す。
いかに手持ちの資産を有効活用し、お金を回していくか。スポンサーシップはどうあるべきか。ペレス会長を中心にレアル・マドリーの経営陣はこれらのことを含め、持続可能な独自のビジネスモデルを確立してきたのだという。
「1億円(スポンサー料)をいただくとは、どういうことか。いかに(マドリーと)お付き合いしてよかったと言わせるか。これらのことを徹底的に考えているんです」
例えば、1年間に3億円を払う場合、費用対効果はどれくらいか。スポンサーがそこに強い関心を寄せるのは当然だろう。関連商品の収益が10%程度なら、少なくとも30億円の売り上げは欲しい。
つまり、クラブ(マドリー)側は3億円ではなく、30億円分のリターンにつながるモノは何なのかを考えるという。資金提供を受けて終わり、ではないわけだ。
「相応のリターンが見込めるならば、資金を出したいと考えるスポンサーはたくさんあるんです。だから、スポンサーを獲得するための戦略も、とことん突き詰める。反面、日本はスペインと比べて経済的に豊か。戦略面でまだまだ穴があるような気がします」
タレントを減価償却するまで使い倒す。
レアル・マドリーのブランド力があれば、スポンサーの獲得など造作もない――と思っていたが、実際に「中の人」たちのスタンスは殿様商売とは縁遠いものだという。ペレスが会長に就任する以前の1990年代に深刻な財政危機に直面していたことを考えれば、当然の成り行きかもしれない。
莫大な売り上げがあっても、そのほとんどが人件費に消えてしまう。もっとも、ペレスが会長に就任してから、人件費の割合を減らしてきた。実際、毎年のようにド派手な補強を繰り返しているわけでもない。
言い方は悪いが、これと見込んだタレントを連れてきては「減価償却」が済むまで使い倒す。今夏、ユベントス(イタリア)へ移籍したクリスティアーノ・ロナウドもそうだ。マドリーは移籍金や年俸分をペイするどころか、それを補って余りある利得を手にしたはず――と、酒井氏は語っている。