草茂みベースボールの道白しBACK NUMBER
プロ選手たちの証言。高校野球での
「水を飲むな」の境界線は松坂世代?
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph byKyodo News
posted2018/08/02 07:00
横浜高・松坂は1998年夏の甲子園、準々決勝PL学園戦で250球を投げるなど、炎天下で6試合、767球を投げ切って、春夏連覇を達成。
田んぼの水、ピンクい井戸水……。
「練習で飲んでよかったのは昼食のときだけでした。というても、遅かったら夜の11時までやるんですよ? だからファウルボールがグラウンドの外に出るでしょ? 脇には吉野川の支流が流れているんです。取りにいってそれを飲んでましたね。でも海が近いから塩っぽいんですわ。それどころか田んぼに張ってある消毒した水まで口にしてました。それに比べて甲子園の楽だったこと……。ベンチに麦茶が置いてあって、飲み放題でした。だから延長18回なんて楽なもんでした」
まずは板東英二氏(徳島商、第40回大会)。タイブレーク制へと変わる前の引き分け再試合制は、導入のきっかけとなったのも適用第1号となったのもこの人の力投だった。
「俺はピンクい井戸水を飲んでたなあ」
こちらは山崎武司氏(愛工大名電、第68回大会)だ。ちなみに「ピンクい」は書き間違えではなく、名古屋独特の言い回しだ。「青い」「赤い」と同じで「ピンクい」。したがって「緑い」とも言う。いや、そんなことはどうでもいい。ピンクの水って飲んで大丈夫なのか? 今も元気なので人体に重大な影響はないのだろうが……。
恐らくはグラウンドに散水するための井戸だと思われる。当時の多数派は「練習では飲むな、試合は飲んでよし」だったが、山崎氏と同学年の中日・奈良原浩内野守備走塁コーチ(帝京)は、東京都大会でも飲めなかったという。
「甲子園に出たら飲んでよかったんだよね。でも都大会は神宮でもあるでしょ? するとベンチ裏に水を飲む機械があるんだよ。監督の目を盗んでそれを飲んでたなあ」
和田一浩が見た“水筒の術”。
都会の球児らしく田んぼや井戸水に比べて飲み方も飲んでいる水もスマート(?)だ。
では4年下がって和田一浩氏(県岐阜商、第72回大会)はどうだろう?
「もちろん飲めません。なので用具倉庫の中に水を入れたじょうろを隠して置いて、ボール取りにいくふりをして飲むのが一般的でした。これは僕じゃないんですけど、外野の土に水筒ごと埋めるやつがいました。ストローだけ地面から出して、吸うんです」
忍者は竹筒をくわえ、水中を歩いたと聞く。その逆パターンか……。と感心している場合ではないが、ここまででおわかりのように「飲むな」と言われてバカ正直に飲んでいなかったわけではない。生き抜く覚悟。生き残る知恵。青春はいつだってピュアに見えて、したたかだ。