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上原浩治の制球力はやはり天才的。
ミリ単位の軌道を映像化する異能。
posted2018/04/04 11:30
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Kyodo News
上原浩治が巨人に帰ってきた。
3月31日の阪神戦で8回表に復帰初登板、そして翌日も8回表にセットアッパーとして登場し、三者凡退に抑えた。
そのピッチングの小気味のいいこと! メジャーリーグの時とまったく変わっていないことがうれしかった。
私が注目していたのは、コントロールである。メジャーリーグでリリーフに転向してからの上原は驚異的な制球力を誇り、三振と四球の比率がメジャーでトップクラスだった。リリーバーとしての8年間の数字をまとめてみると、こうなる。
2010年 三振55 四球5
2011年 三振85 四球9
2012年 三振43 四球3
2013年 三振101 四球9
2014年 三振80 四球8
2015年 三振47 四球9
2016年 三振63 四球11
2017年 三振50 四球12
四球1に対し、三振の数は10個前後を誇った。この比率はいうまでもなくメジャーで一流の証であり、特に2013年、2014年は無類の制球力を誇っていたのである。
数ミリの違いをビジュアライズできる。
これはチームにとって大きな「財産」であり、ボストン・レッドソックスの監督として、上原をマウンドに送っていたジョン・ファレル氏は、
「コウジの制球力(氏は“command”という単語を使った)は、メジャーリーグでもトップ5に入るほど、繊細なものだ。安心して9回を任せることができる」
と語ってくれたことがある。
また、実際に上原がボールを握りながら、制球について話してくれた時のことも忘れ難い。ボールの縫い目にかけた指を数センチ、いや数ミリ動かすと、
「バッターの手元での軌道が、“こういう風に”変わります」
と話しながら、「こういう風に」という時に、腕を使ってイメージする軌道を話してくれたのである。
数ミリ単位の違いなのに、軌道をビジュアライズできる――。
天才だと思った。
メジャーリーグの球史に残る制球力は、指先の「センサー」によって支えられていた。