「俺、転職するわ」

　2013年6月4日、埼玉スタジアムに妻とともに行くと、弘幸が入口で待っていて、関係者席へと案内してくれた。

　引き分け以上でブラジルへの切符が手に入る正念場で、本田は1点ビハインドの終盤、自らPKを獲得すると、それを相手ゴールのど真ん中に蹴り込んだ。

「衝撃でしたね。サッカーをやっていたからわかるんですが、あの状況で、あの場面で真ん中に蹴るなんて、普通、絶対にできませんから」

　その瞬間、木村はある決意をして、隣に座っていた妻にこう告げた。

「俺、転職するわ」

　そして、今、「HONDA ESTILO」のグループ企業で、人材紹介会社「Next Connect」の代表取締役として、元アスリート（木村の会社では、スポーツ選手だけではなく、何らかの分野で目標に向かって努力してきた人を指す）のセカンド・キャリアをサポートしている。

「2年目を迎えて思うことは、今、自分のやりたいことが見つかっていない、本当にやりたいことが自分の中にない人が多いということです。アスリートはずっと特定の分野でばかりやってきているので、余計に時間がかかるのかな、と」

本田兄弟に人生を変えられた男が今度は……。

　あなたが本当にやりたいことは何か。

　あなたが目指しているのはどこか。

　木村の仕事とは、人生のターニングポイントを迎えた人たちにこう問い掛けることでもある。それは不思議と本田弘幸や圭佑が周囲に訴えかけてきたことにも重なる部分がある。

　本田兄弟によって人生を変えられた男が、今度は、他の人たちの人生を変えようとしている。

【次ページ】　本田の持つ、周りを変えていく力。