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村田諒太が「ドカンと成長」した時。
人間のキャリアは一歩一歩じゃない?
posted2018/01/18 12:10
text by
薦田岳史(Number編集部)Takeshi Komoda
photograph by
Takuya Sugiyama
「僕は(漫画『ど根性ガエル』の主人公)ヒロシみたいなものですからね」
1月5日に行われた「Number944号 ボクシング特集」表紙撮影前の雑談で、WBA世界ミドル級王者・村田諒太は自身の現在の境遇をユーモアたっぷりにそう表現した。
昨年10月22日、アッサン・エンダムとのダイレクトリマッチを制し、日本人として22年ぶりのミドル級世界王者に。さらに金メダリストの世界王者誕生は日本人初でもあり、「2017年の顔」は各行事に引っ張りだことなった。
Jリーグ年間表彰式にプレゼンターで登壇し、年賀状イベントでは羽織はかま姿を披露。大晦日には紅白歌合戦の審査員も務めた。
「(2012年のロンドン五輪で)金メダルを獲った時も、たくさん(のイベントに)お声掛けいただきました。その時も同じだったんですけど、金メダリスト、あるいは世界王者ということがまずあって、僕はメダルや、ベルトが行くところに引っ張られていくという感じで、ちょうどシャツに張り付いたピョン吉があちこち行って、ヒロシがそれに振り回されているような気分です(笑)」
本を読んで、実際に経験してこそ自分の言葉になる。
もちろん村田選手は「世界王者」という称号に振り回されてばかりではない。世界チャンピオンへと至る「経験」から学ぶことも多かった。昨年12月30日に俳優でボクシング通としても知られる香川照之さんとボクシング対談を行った時のことだ。
「実際に経験しているかどうかは大きいですよね。僕はよく本を読みますけど、ただ読んだだけでは身にならない。読んだうえで、そのことを自分でも経験して、これはこういうことだったんだと、書いてあることと経験がつながって初めて、自分の言葉になる。だから僕は経験がすべてだと思うんです。
その『経験』に関して言うと、僕は最近、人間のキャリアって、一歩一歩、徐々に進行していくように思えますけど、実はそうじゃない気がしていて。僕はプロになってから14戦してますが、あのエンダムとの2戦と、その前のブルーノ(・サンドバル)との試合は、経験値で言うと、20戦、30戦分のキャリアを作ってくれたと思うんです。
(ワシル・)ロマチェンコもプロ2戦目の(オルランド・)サリド戦で敗北を喫して、あの試合で何十戦分のキャリアを得たから、今のものすごく強い姿がある。それと同じで人間ってドカンと一気に成長する瞬間があって、それが大きなキャリアになると思うんです」
ミドル級としてはかなり少ない試合数で王者となった村田選手だったが、チャンピオンベルトへ向けた挑戦を続けていく中で「ドカンと一気に成長」する瞬間があったのだ。