球道雑記BACK NUMBER
ロッテ戦力外から社会人野球名門へ。
金森敬之に沁みた武田久と家族の愛。
posted2017/12/18 07:30
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph by
Kyodo News
プロ野球12球団合同トライアウトを翌朝に控えた2017年11月14日の夜。
金森敬之はおろしたてのキャップを荷物の中から取り出して、2人の息子たちにお願い事をした。
「帽子のつばの裏の部分に2人の名前を書いて!」
すでに野球も始めている7歳になる長男は漢字でフルネームを、幼稚園に通う5歳の次男は覚えたばかりのひらがなでファーストネームだけを大きな文字で書き記した。
「次男はまだ5歳なので『う』が逆なのは仕方ないですが……(笑)」
子供たちの話になると金森は優しい父親の顔に戻る。
2人の名前の下には「がんばれ!!」の力強いメッセージも付け加えられていた。
「家族がいる奴はピンチのとき家族の顔を思い出せ」
金森が帽子のつば裏に家族の名前を書き始めたのは、北海道日本ハム時代。ピッチングコーチだった小林繁氏のある言葉がきっかけだった。
「マウンドでピッチャーは孤独と戦わないといけない。ピッチャーを潰すために相手は束になってやってくる。家族がいる奴はピンチのとき家族の顔を思い出せ。きっと力になってくれるはずだから」
若手時代に聞いたその言葉が脳裏に深く焼き付いていた。
「シーズン中は自分の文字で、妻と息子のイニシャルを帽子のつば裏に書いていたのですが、(息子も)字が書けるような年になったので今回は直接書いてもらいました」
ロッテでの戦力外通告から約1カ月間。金森はシーズン中の疲労をとりながら、家族と過ごす時間をなるべく設けてトライアウト本番に向けて、心身ともにリフレッシュを図った。
「シーズン中にも整体に行ったりはしていたんですけど、今回はプールに行ったりもしました。体をほぐしながら1時間くらいなんですけど、追いこみをするような感じではなくて、本当に疲れをとりながら……それこそ子供たちとも一緒に行けるので、家族サービスにもなりましたし、そこでトレーニングもして、って感じでしたね」
よほど充実した時間を過ごせたのだろう。金森の表情はとても戦力外通告を受けた男とは思えないくらい生き生きとしていた。