マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
有力投手がドラフト指名外のカラクリ。
「“エライさん”に説明するのが……」
posted2017/11/14 07:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
NIKKAN SPORTS
11月2日から京セラドーム大阪を会場として、「社会人野球 日本選手権大会」が行われている。 社会人球界では今年最後の全国大会である。
7日、日本新薬・西川大地投手がすばらしいピッチングで新日鉄住金鹿島を8回1点に抑えて、チームを2回戦に進めてみせた。
小さめのテークバック、一転して真上から豪快に投げ下ろしてくるフォーム。右打者の外角低目、左打者の内角低目に角度抜群の速球がきまる。スピードは130キロ後半でも、社会人の第一線の強打者たちが完全に振り遅れる。
カーブ、チェンジアップ、スライダー、カットボール……30キロの球速帯の中で緩急を演出して、速球の“体感スピード”を上げている。
なんで、こんなええピッチャーが指名されへんねん……?
ネット裏、後ろのほうからそんな声が聞こえた。
立命館大から入社して2年目。今年のドラフト候補にも挙がっていた右腕だ。 そうでなくても“候補”が少ないといわれていた「2017ドラフト」。これほどの実戦力を持った投手がなぜ指名されなかったのか?
こんな解説をしてくれたスカウトの方がいた。
「立命館では、巨人にドラ1で行った桜井(俊貴)と二本柱で投げてたピッチャーですから、自分たちの評価だってそんなに低いわけじゃなかったんですよ。安定感なんか、僕は桜井以上だと見てましたから」
良さを“エライさん”に説明しづらい投手。
ならば、ドラ1と指名漏れの違いは何から生じたものなのか?
「理由はいくつかあると思いますが、まず“数字”じゃないですかね……」
数字とは、140キロ台当たり前みたいな今の社会人球界で、西川投手の球速が130キロ後半にとどまることを指している。
「今、ドラフト候補に挙がるピッチャーって145キロ前後が普通で、150キロ出ます……なんて誰も驚かなくなっている。でも、西川みたいに緩急とコントロールで勝負するピッチャーだって、十分通用するんですよ、オリックスの西(勇輝)とかソフトバンクの武田(翔太)みたいにね。だから途中まではリストに挙がってるんです。で、ドラフトが近くなると、会議に“エライさん”が出てくるでしょ。この人たちに、西川の良さを説明するのが、正直しんどい」