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元キマグレン、2戦2敗のボクサー人生。
クレイ勇輝「あんな瞬間、人生で……」
text by
宮田文久Fumihisa Miyata
photograph byIchisei Hiramatsu
posted2017/08/07 08:00
現役生活を嬉しそうに振り返るクレイ勇輝。たとえボクシングに愛されなくても、ボクシングを愛していることが手に取るように分かった。
スパーリングが好きで、パズルや将棋のような感覚。
振り返って2011年。楽曲制作を共にしたミュージシャンからボクシングを勧められたクレイは、正直二の足を踏んだという。幼少期に住んでいたカナダではアルペンスキー・ダウンヒルのレースに、日本に帰国後も競泳の大会にと、かつては種々のスポーツに本格的に取り組んできたクレイだが、30代になって以降、体重が以前のように維持できないことが気になってはいた。
そこでダイエット目的に勧められたのがボクシングだった。ちなみにボクシング開始時は64kgだったという。身長173cmである彼が、如何に元からストイックな身体感覚の持ち主かは、このエピソードからも明らかだ。
格闘技には興味がなかったというクレイ。しかし実際に恵比寿のK's BOXジムに足を運ぶと、あたたかな雰囲気に驚いた。酒を飲まない彼にとって、激しいトレーニングの場でありながらも、自らの心身を解き放つことのできる“居場所”が見つかった感触があった。その後ペースこそ多忙な時期には落ちるものの、いきなり週6で通いつめるほど、のめり込んだという。
「特にスパーリングが好きで。パズルや将棋のような感覚なんです。ジャブを出しながらフックを当てて、下が空いたらボディー、ガードが下がったら今度は上に……っていう感じで。頭を使わないと体が追い付かない、手数で勝負できない年齢というのもあるんでしょうけど(笑)」
いい曲を作っても葛藤がある中、ボクシングが与えた光。
そして何よりボクシングは、アーティストならではの苦悩を吹き飛ばしてくれる存在でもあった。
「せっかくいい曲をつくっても、数字が伴わないといい曲だとは見なされないし、そこにはどうしても、人それぞれの好き・嫌いという評価がついてまわる。音楽は好きなんですが、そうした音楽をめぐるものに『うーん』と思っていた時期は正直あって。
ボクシングというスポーツは、強いか弱いか、それだけなんです。どんなにカッコ悪くても、人がそのボクサーを好きでも嫌いでも、強ければいい。そんなシンプルな世界は、本当に久しぶりでした」