JリーグPRESSBACK NUMBER
中村充孝だけを90分間見つめてみた。
新生鹿島を象徴する元やんちゃ坊主。
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph byKashima Antlers
posted2017/06/27 11:35
中村充孝は豊かなアイディアと卓越したボールスキルを持ち、中央でもサイドでも機能する、見ていて楽しい選手なのだ。
「一番近くの相手を捕まえる」というシンプルな約束。
ただし攻撃の流動性は、守備の混乱と表裏一体。前線の4人が頻繁にポジションチェンジを繰り返せば、ボールを失ったときにマークのずれが生じやすい。しかし、大岩体制の鹿島では、予防策ができている。
一番近くの相手を捕まえろ。
新潟にボールが渡った瞬間、それぞれの選手が自分に最も近い相手選手にマークに付く。例えば、中村が中央に入った際にボールを失えば、相手のセンターバックやボランチにプレッシャーをかけ、土居がサイドに移っていれば、相手のサイドバックを追って自陣深くまで下がる。
結果は、2-0で鹿島の勝利。大岩体制となって3連勝を飾った。しかし、この日の鹿島は簡単に勝ち点3を得たわけじゃない。前半は新潟のハイプレスに苦しみ、なかなかボールを前に動かせず。状況を打開するために、中村がボランチの小笠原満男に話しかける場面が、何度も見られた。
「満男さんと話していたのは、ビルドアップに関して。もちろん僕ら前線の選手の動きも足りなかったんですけど、今の鹿島のやり方は、三竿(健斗)がセンターバックの間に下がってビルドアップする。そこで、もう1人のボランチである満男さんまで下がってしまうと、なかなか前に運べない。だから、『満男さんのところで主導権を取ってください』と伝えていました」
評価ポイントを明快に示すのが大岩流。
決して試合の流れをつかめない中でも、57分にCKからペドロ・ジュニオールが先制点を決め、相手の足が止まったところで追加点を奪った。
流動的に動く攻撃陣と、高い位置から相手を捕まえる守備、苦しみながらもセットプレーでスコアを動かす試合巧者ぶり。なんとなく、現在の鹿島のサッカーは、リーグ3連覇を達成したオズワルド・オリヴェイラ監督の時代と似ている。そんな感想を、鈴木満取締役強化部長にぶつけたら、こう返ってきた。
「確かに似てるかもね。前任者の石井は、チームに問題があっても、どちらかといえば『選手が自分で気づくまで待つ』というスタンスだった。逆に剛は、はっきりと口にする。今日のハーフタイムでも、個々の選手に『こういうところがダメだ』とストレートに伝えていた。
日頃から、『中盤は流動的に、自由にやっていい』とはっきり指示しているし、選手の良いところもよく見ている。例えば、レアンドロの攻→守の切り替えの速さも評価している。こういうところが良いから試合に使うんだと示すから、周りの選手も納得する。
サッカーのクラブだけじゃなくて、一般の企業でもそうでしょ? 上司に見られているときだけ一生懸命やる社員が評価されれば、周りは冷めてしまう。でも、普段から一生懸命やっている社員が評価されれば、周りも納得できる」