フランス・フットボール通信BACK NUMBER
世界で最もセレブな街のサッカー事情。
ASモナコの躍進と、その国民の悲願。
posted2017/05/15 08:00
text by
オリビエ・ボサールOlivier Bossard
photograph by
Frederic Mons
『フランス・フットボール』誌の5月2日号では、オリビエ・ボサール記者がモナコ公国のサッカー事情をレポートしている。
セレブの国――カジノとヨット、豪華ホテルで知られた人口わずか3万8000人のモナコ公国には、トップチームのASモナコ以外にもサッカー文化が存在し、地元の人々に愛されている。2004年以来のチャンピオンズリーグ決勝進出の夢はユベントスの前に断たれたが、モナコで人々はサッカーとともにどう生きているのか。その様子を伝える。
監修:田村修一
世界的なセレブの街で、サッカーはどんな存在なのか?
子犬が最先端のコートを着て散歩している。連れて歩くブロンドの女性も同じ格好をしている。ここではたとえ雨や曇り空でもサングラスは必需品である。ルイ2世スタジアムから100mほどのレストランでは、テニスプレイヤーのグリゴール・ディミトロフが奥さんにパスタを取り分けている。
セレブとの遭遇はごくありふれた風景で、誰も彼らに関心を払わない。
あらゆる街角に防犯カメラが設置され、犯罪が起こる可能性はほぼ皆無である。
「ここに働きにきているフランス人は、品行方正であることを求められる。さもないと、労働許可証を取り上げられて、二度と足を踏み入れられなくなる。僕らはこの小さな国で、静かに暮らしているからね」と、モナコで商店を営むエリックはいう。
ルイ2世スタジアムの前では、100人ほどのサポーターが大人しく開門を待っている。チャンピオンズリーグ準決勝のゲートがもうすぐひらき、モナコ市民がまず優先的に入場できる。
「ちょっとしたお祭り騒ぎさ」と、目抜き通りの『サス・カフェ』の支配人を務めるサミはいう。彼はまたASモナコ(以下ASM)の熱烈なサポーターでもある。
「誰もがチケットを欲しがって、僕にも問い合わせが幾つもあった。F1ドライバーのフェリペ・マッサやU2のボノもそうで、彼らは社交のためにスタジアムに行くんじゃない。サッカーが好きで、ASMが見たいから試合に行くんだ」
港に面したレストラン『ル・ジャック』のテラスでは、銀行家のヤニック・ナヴァが昼食をとっている。やはりASMの熱烈なサポーターである彼の住居は、車で20分の距離のマントンにある。
「フランス人がモナコに住むのはほとんど不可能だ」と彼はいう。
「ワンルームマンションですら月に6000ユーロ(約70万円)もする。だから僕も、昼だけ働いて夜はフランスに帰るんだ」
かつてASMに所属し、イングランドも良く知るガエル・ジベは語る。
「モナコは選手を惹きつける。ここには満ち足りた生活があり、安全がある。マンチェスターよりもずっといい」