野球善哉BACK NUMBER
全校生徒800人で、野球部は10人。
不来方の快挙は危機の裏返しだ。
posted2017/04/03 08:00
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Kyodo News
たった10人の部員が躍動する姿に、見ていた人の多くが感動を覚えたに違いない。
センバツ5日目の第3試合に、21世紀枠で出場の不来方(岩手)が登場した。静岡に3-12で敗れたものの、今年のWBCメンバー・増井浩俊を生んだ強豪校に対して、真っ向から挑んだ姿を称賛する声は多かった。
強豪を相手に臆することなくフルスイングを心掛け、9安打を放ち3得点を奪った。送りバントを多用せず、果敢に攻めていった姿勢は評価されるべきだろう。1点を先制した後は劣勢になって12失点を喫したが、彼らの戦いぶりは勇ましかった。
部員10人の挑戦には、勝敗だけでは片づけられないものがあったのだ。
しかし、彼らの挑戦が伝えたメッセージは感動だけではなかった。10人の部員しかいない高校が甲子園に出場した。このことは何を意味しているのか――。
「部員10人」と聞けば、生徒の少ない学校で数少ない部員を集めて努力し、21世紀枠の代表校に選ばれたと感じた人もいるだろう。ハンデを乗り越えての取り組みと結果が評価されて彼らは甲子園の土を踏んだのだ、と。
だが、その想像は正確ではない。
不来方は野球以外の部活動も盛んで、過疎化とも無縁。
なぜなら、不来方のある岩手県紫波郡は盛岡市と隣接するベッドタウンであり、過疎化に苦しむ地区ではないからだ。1988年に創立したばかりの新設校で、学校の評判は上々で、全校生徒は800人を超える。
部活動も盛んで、同時期に開催されている全国選抜ハンドボール大会に出場している。他にも全国的に有名な部活動が多く、開会式の国歌斉唱では同校の音楽部部員が「君が代」を独唱したし、サッカー部は1学年に2~30人の部員がいるという。
一塁手の吉田圭太が“部活事情”を話してくれたところによると、「中学校ではなかった部活も人気がある」という。