欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
キャプテンでボランチでラームで。
ドイツでの酒井高徳は、全然違う。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byAFLO
posted2017/03/16 10:30
ブンデス最年少キャプテン、しかも外国人選手。ドイツでの酒井高徳の存在感、説得力は日本で感じる以上のものがあるのだ。
フィジカルを褒められるのは、ずっと嫌だった。
ドイツ人の母を持ち、日本人離れしたフィジカルの強さを武器に酒井は、U-15代表候補に選出され、原口元気や宇佐美貴史らとFWとして競い合ったこともある。高校進学時にアルビレックス新潟ユースに加入後はサイドバックに転向し、飛び級でU-19代表候補にもなった。しかし当時の酒井は「フィジカルの強さ」を評価されるのが嫌だったと以前話している。
「サッカーを始めたのが10歳だったこともあって、とにかく技術がなかった。だからフィジカルと交換してでも技術がほしかった。フィジカルの重要性を実感したのはドイツへ来てからですね」
自身の弱点を埋めようとした時間が土台になったのだと、酒井はいま痛感している。技術の向上はもちろん、同時に思考力を磨いたからこそ、ブンデスリーガで守備的ミッドフィルダーを務め、キャプテンを任されるのだ。
代表でのボランチ起用は「絶対ないでしょ(笑)」。
守備的ミッドフィルダーといっても、求められるタイプはチームの選手構成、スタイルによって変わる。バイエルンとハンブルガーSVでは違うのと同様に、日本代表もまた別だと酒井はいう。
「ドイツでは、特にうちのチームでは、戦う姿勢のボランチが求められるけど、日本代表にはもっとボールを扱えて、リズムを作れる選手がいいでしょう。もちろん、起用されればやりますけど。絶対にないでしょ(笑)。ハリルホジッチ監督から、以前『リベロもできるんじゃないか』って言われたことがあるけど、監督は本気じゃないと思うし」
2012年にドイツへ渡った当時、酒井はまだドイツ語が流暢に話せなかった。しかし、この日の試合後は、地元のメディア取材にドイツ語で対応していた。すでにJリーグでプレーしていた以上の時間をドイツで過ごしている。
移籍直後は「ラーム2世」と呼ばれ、帰化してのドイツ代表入りが地元で話題になるほど注目を集めたが、そんな話も今は昔。手堅いサイドバックとして2015年ハンブルガーSVに加入。ドイツ人選手と比べても見劣りがしない身体能力に加えて、日本人ならではの献身性と真面目さ、カバーリング能力と危機察知力が、ボランチでありキャプテンという新たな存在感もたらした。
現在の経験は彼の可能性を広げるはずだ。
サイドバックだった元ドイツ代表のラームは、ジョゼップ・グアルディオラによって守備的ミッドルィルダーへコンバートされている。そんな名選手とはタイプは違うが、酒井がいつか「日本のラーム」と言われる日が来るかもしれない……。