マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
広島・加藤拓也の初登板は酷だった。
一軍打者に、振ってもらえない辛さ。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2017/02/13 07:00
加藤拓也は、高校1年まではキャッチャーだった。投球の組み立てを磨く素地は持っていると言えるだろう。
ドラ1・加藤が初めてフリー打撃に登板したが……。
そんな中で、この日、ある“お披露目”があった。
ドラフト1位・加藤拓也投手(慶應義塾大)がフリーバッティングに登板し、初めてプロの打者たちを相手にその剛腕を披露した。
この日のグラウンドがすごかった。
ざっと見渡しただけでも、カープの大先輩で共にエースを張った北別府学、山内泰幸がいて、斉藤和巳(元ソフトバンク)、小宮山悟(元ロッテ)らの論客がいて、球界を代表する打者で田尾安志(元中日)、宮本慎也(元ヤクルト)までが顔を揃え、そして誰より、山本浩二元広島カープ監督がバッティングケージの後方ど真ん中でじっと腕組みして、にらみをきかす。
どう見ても“試練”。
代わる代わる打席に入るのが、田中広輔、鈴木誠也、菊池涼介の「カープ3人男」であったにせよ、ルーキー・加藤拓也の目の前にはだかっていたのは、ケージの向こうに立ち並ぶプロ野球のレジェンドたちだったに違いない。
強いボールでやっつけたい、と思っていたのでは。
どうにでもなれ!
そんな叫びが、彼の体の中を駆け巡っていたのではないか。
いつもに増して、豪快なボディースイング。体の後ろのほうから、右腕をボールごと放り投げるような投球フォーム。ただでさえ荒れるのに、今日は投げたあとのフィニッシュで体が一塁側に吹っ飛んでしまう。
強いボールで相手のバッターをやっつけてやりたい。剛速球を投げなきゃ、かっこつかないだろ、ドラフト1位としては……。
口では後でもっと“優等生”なことを言っていたが、ほんとのところ、現場での胸中はパニック寸前だったはずだ。
本人も辛かったろうが、見ているこっちもかなり辛い場面だった。