マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
広島・加藤拓也の初登板は酷だった。
一軍打者に、振ってもらえない辛さ。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2017/02/13 07:00
加藤拓也は、高校1年まではキャッチャーだった。投球の組み立てを磨く素地は持っていると言えるだろう。
プロのスタートが切られる前に、本質を確かめてほしい。
慶應大で絶対的エースという立場になってしまった都合上、みずからをふてぶてしく装わなければならなかった事情というやつがあったのではないか。
勝手な推測は失礼かもしれないが、私にはそんな“息苦しさ”が、慶應のエースの頃から感じられて仕方なかった。
プロに入って、とりあえずトップではなくなって、作らなくてよいぶん、楽になったのではないか。
スタートラインに立って、「よーいドン!」のピストルが鳴る前に、試しにちょっとスタートのまねごとをしてみただけ……。
この日のピッチングは、そんなところだろう。
この日の出来事を、プロとしてスタートを切るに当たって、自身のピッチングスタイルを考えるきっかけにしてもよいのではないか。
打者の狙いを読み取って、その裏をかき、相手のタイミングを外しながら凡打を積み上げていく。
実はそれが自分の“本質”なのだと、なんとなく勘づいているのであれば、そっちのほうへモデルチェンジする絶好の機会が、ルーキー・スタートのまさに今であろう。
私の妄想が、単なる妄想なのであれば、それでもよい。
ガムシャラに前に突進する前に、ちょっと待てよ……とふと立ち止まって、自分に確かめてみる。1年目の春のキャンプとは、そういう機会として有効に活用してもよいのではないか……などと、日南から宮崎へ戻るおよそ1時間の海沿いの道に車を走らせながら、思ったものである。