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プロレスも小説も、核は虚実の間に。
樋口毅宏“引退作”『太陽がいっぱい』。 

text by

今井麻夕美

今井麻夕美Mayumi Imai

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photograph byWataru Sato

posted2016/11/13 08:00

プロレスも小説も、核は虚実の間に。樋口毅宏“引退作”『太陽がいっぱい』。<Number Web> photograph by Wataru Sato

樋口毅宏は、存在自体がプロレス的な作家である。どこまで真に受けるか、という稀有な悩みを読書中に与えてくれる存在だ。

最後に、筆者にケンカを売りたい。

 私自身プロレスを見はじめて4年ほどになるのだが、観戦中、現実との遠近感にクラクラすることがある。

 剥き身の肉体を四方にさらしながら、ドラマを演じる。勝敗よりも、その痛みや汗に真実を感じてしまう。現実に表出する事と、隠される事のギャップに魅かれるのだ。

 しかしそれは、プロレスに見たいものを見ているだけにすぎないのかもしれない。『太陽がいっぱい』にも、ロラン・バルトの〈大事なのは観客が信じるものではなく、観客が観るものなのだ〉という一節が引かれている。著者は、負け続けてもそこに立ち続ける男の情念を、プロレスに見てきたのだろう。きっと現実を生きるために、男たちの物語を胸に描きながら。

 最後に、この作品で引退するという著者に、ケンカを売りたい。樋口毅宏ー! 逃げんなよ、立ち続けろー!

 虚実の間に生まれた物語を、いつかまた私たちに見せてくれる日を待っている。

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樋口毅宏

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