サムライブルーの原材料BACK NUMBER
山口蛍の生き様が吹き込まれた一撃。
躊躇も雑念もない不器用さの結晶だ。
posted2016/10/15 11:30
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Takuya Sugiyama
ハリルジャパンを救ったあの一発。埼玉スタジアムが揺れたあの一発。
後半アディショナルタイムにぶちこんだ山口蛍のミドルシュートがなければ、最終予選の道はより険しくなっていた。
「いつもやったらふかしてしまうところをなんか入ってしまって、ホント良かったです」
試合後のインタビューに応じる殊勲者には、スタンドから拍手の雨が降り注いだ。
「すげえよ。よくも迷いなく、足を振り切ったよな」
スタンドの階段を降りてくるファンの感嘆が聞こえた。同感だった。取材エリアでメディアに囲まれた山口の声を、断片的にメモに取った。
「最後、思い切って振り抜こうと」「(シュートが)あれ以上浮いていたら、相手に当たっていたと思うので抑えられてよかった」
いつもと同じく静かな口調で語っていた。
迷いも、躊躇も、これっぽっちもなかった。
想像していただきたい。
ゴール前での競り合いから、自分の前にボールがこぼれてきたとする。絶対に勝たなければいけない状況。アディショナルタイムの残りはもうわずか。その前にはヘディングシュートを決め切れていない。ダイレクトで合わせる難しさもある。トラップしてシュートを打つ選択を考えたっておかしくはない。
このうえない重圧と緊張。
でも彼には迷いも、躊躇もなかった。これっぽっちもなかった。でなければ、あれほど気持ち良く足を振り切れるわけがない。弾かれたボールは、大谷翔平の投げる時速160kmよりも速く感じた。
山口蛍だからこそ決められた。そんな気がしてならなかった。