球体とリズムBACK NUMBER
世界が怖れる大坂なおみの超パワー。
セリーナ後、女王の座はいまだ空席。
posted2016/09/26 17:00
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
AFLO
カリブの血を引くチャーミングな18歳が、女子テニス界のトップへと続く階段を駆け上がっている。ハイチ系米国人の父と日本人の母のもとに大阪で生まれ、ニューヨークとフロリダで育った大坂なおみは、初のツアータイトルを母国のプレミア大会(東レ・パンパシフィックオープン)で手にしかけた。
何日もずっと隠れたままだった太陽も祝福してくれそうな最高の日曜日になることを誰もが願っていたが、元女王キャロライン・ヴォズニアッキの壁は高かった。あくまで現時点では──。
「(負けたけど)それでもすごくハッピーよ」これはファイナルで敗れた後に彼女が英語で言った言葉。「応援してくれて、ありがと」あまり得意ではない日本語でそう言うと、有明コロシアムにいた多くの人の顔がほころんだ。
世界のトップ選手が、大坂のパワーに驚愕。
でもプレースタイルは、良い意味で可愛さとは無縁だ。シグネチャーのビッグサーブは、今大会でも最高で194キロを記録。準々決勝のアリャクサンドラ・サスノビッチ戦を締めくくった真ん中への193キロの弾道が最も印象的だった。あまりに速すぎて黄色の一条が一弾指に過ぎただけに見えたサーブについて、それを最も近くで見た22歳のベラルーシ人は試合後の会見で、「男子のサーブみたいだったわ」と、クリッとした両目を見開いて明かしてくれた。
グラウンドストロークの威力も半端じゃない。ラリーで守勢に回っても、一度の強打で形勢を逆転できるその球筋には、決勝のスタンドから何度も驚きの声が上がっていた。鋭く風を切る音は、確かに空気を震わせていたのだ。また、WTA公式サイトによるとフォアハンドが得意とされているが、バックハンドのダウンザラインでウィナーを奪ったシーンも少なくなかった。
今大会のトップシード、ガルビニェ・ムグルサが「彼女とは練習したことがあるけど、もう本当にパワフルなの。あの素晴らしい筋肉は現代テニス向きよね」と太鼓判を押す才能の持ち主は、昨季終了時のWTAランキング203位(公式サイトより)から、この9カ月を経て40位台に入ろうとしている。