プロ野球亭日乗BACK NUMBER
あの松井秀喜が苦しみつづけ、
筒香嘉智が克服した「欠陥」とは?
posted2016/08/05 11:30
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Naoya Sanuki
「だからさあ……オレはアイツにゴルフやれって言ったの」
2003年のオフのことだった。
当時、スポーツ紙の評論家をしていた中日・落合博満GMと、とあるゴルフコンペで一緒に回ったときのことである。
ADVERTISEMENT
その年、私は巨人からフリーエージェントでニューヨーク・ヤンキースに移籍した松井秀喜さんのメジャー1年目を追いかけ、日米を行ったり来たりする生活を送っていた。そこでメジャー1年目のシーズンに散々、苦労する松井さんの姿を見ており、ラウンドの合間には、当然、そんな松井さんのバッティングの話になった。
すると茶店で休憩をしているときに、落合さんがこんなことを言い出したのである。
「アイツにはバッターとして重大な欠陥があるからな」
突然の指摘に当然、その「重大な欠陥」とは何なのかを問い詰めた。最初は「簡単なことだから見てりゃ分かるって」とはぐらかしていたが、最終的に説明してくれたのはこういうことだった。
「松井は逆方向にボールを打つときに右の脇が空くんだよ」
そう言って落合さんは左打ちの構えから右肘をオーバーに持ち上げるような格好でスイングして見せたのである。
「それが作られた左バッターの欠点だ」
「あの打ち方じゃ、逆方向に強い打球は絶対に飛ばせない。ゴルフでいうスライス(左打ちなら弱々しく左方向に曲がっていく球)しか出ないんだ。それを治さないと向こうで30本打つなんて、とてもできないな」
そしてその矯正の方法として奨励したのが、ゴルフだったのだという。
「ゴルフは左打ちなら右肘を、右打ちなら左肘をしっかりたたまないと極端なスライスが出る。だから巨人にいるときにゴルフが一番いいから、ゴルフをやって右肘の畳み方を覚えろって。ずっとゴジには言っていたんだけどな……全然、直ってないな」
その後松井さんに直接、落合さんの意見を話すと、すぐさま苦笑いを浮かべてこんな答えが返ってきた。
「落合さんからはずっとそのことを言われてたなあ。それが作られた左バッターの欠点だって。右手が強すぎて、どうしても右手で(バットを)引っ張ろうとするからだってね」
そのことは松井さんも十分に自覚していたが、結果的にはその悪癖を完全に矯正することはできなかった。