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WWE中邑真輔の“ホーム”は何処だ?
プロレス人生、旅から旅の連続ドラマ。
text by
井上崇宏Takahiro Inoue
photograph byHiroki Watanabe
posted2016/07/15 11:00
WWE移籍後、無敗を続けている中邑真輔。両国・日本凱旋大会では、クリス・ジェリコ、ケビン・オーエンズに快勝した。
久々にあった中邑は、すっかり現地に溶け込んでいた。
6月下旬、ボクはこのオーランドの地を訪れた。現在発売中のNumber PLUS『プロレス2016』特集号で、中邑真輔に取材をするためである。
到着した翌日の午前中、取材場所に指定されたパフォーマンスセンターに中邑は軽装で姿を現した。とてもリラックスした面持ちで「チーンし!」とおなじみの挨拶をしてきて、すぐさま、ここは彼にとってすでに“ホーム”なんだなと感じさせられた。
浅黒く焼けた肌は、天気さえ悪くなければオフのたびに海へと出かけるからだ。大好きなサーフィンは、海と自然を感じさせてくれ、ツアーで疲れた身体を癒してくれるのだという。食事は基本的に自炊で、納豆も買えるアジアンマーケットも発見済みだ。
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「これはホントに『今頃、何を言ってるんだ?』と思われるかもしれないですけど(笑)。インターネットが世界的に普及してもう10年以上が経過して、それ以前と以後とでは海外で生活をするということのハードルがガラッと変わりましたよね。たとえば電話線でのダイヤルアップ接続だったものが光ファイバーによるネット通信に変わり、得られる情報量も爆発的に増えた。
ネットにはあらゆる情報がこと細かく記載されているから、昔と比べて海外で生活をフィットさせるということがとてつもなく楽になったなと思いますね。それこそ昔は日本に電話をかけようと思っても、電話代がかかるからタバコ屋さんみたいなところで国際電話カードを買ってきて、固定電話から交換手みたいな人に繋いでもらったりしていた。今はSNSの普及で、メッセンジャーなどで簡単にチャットができたりするわけですから。たしかに物理的な距離は当然、今も昔も変わらない。だけど横の距離はあっても縦の距離はないような、そんな感じがしていますね」
高校時代から、世界へ飛び出すための英語を学ぶ。
高校時代から、“世界”に憧れを持っていた中邑は、学校でも新設されたばかりの英語クラスに在籍していた。
母親に頼んで英語教材の『家出のドリッピー』を通信販売で手に入れた。これは、シドニィ・シェルダンが日本人の英語初心者向けに書き下ろした物語をCDやテキストブックを駆使してリスニング技術を向上させようとした教材で、かつては少年漫画誌などに頻繁に広告が入っていたから、ある世代の人間にとってはその存在だけでも知っているという人も多いだろう。効果のほどは……わずかながらも実感したという。
もちろん、英語の勉強は今も継続中だ。WWEのパフォーマンスセンターには、ランゲージクラスなる語学力を高めるプログラムがあり、希望さえすれば英語、スペイン語、中国語などを学ぶことができる。たとえば中邑が受けている英語のクラスなら、アメリカ人講師と世間話のような会話をしながら、発音の仕方やよりネイティブな英会話ができるようになることを目指す。
「ボクのはけっこうブロークンイングリッシュだから、発音の仕方だとか、英語がしゃべれない人によく通じる英語なんですよ(笑)。だけどアメリカ人も普段の会話の中でちょっとした文法違いだったり、“a”とか“the”が付いてないっていうのは気にしないし。だからそういう細かいところを学んでる感じですよ。『ああ、そうだったんだ』みたいな」
まるで日本にいたときと同じようなノリで、中邑はアメリカ生活の様子を淡々と語る。おそらく、プロレスにおいても、生活においても、余裕があるのだ。