濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
ムエタイ王者がKOでK-1連覇!
老獪さ封印したゲーオのリアリズム。
posted2016/07/03 07:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Takao Masaki
6月24日、代々木第二体育館で開催されたK-1 -65kg世界トーナメントを制したのは、同級世界王者のムエタイ戦士ゲーオ・ウィラサクレックだった。
チャンピオンの優勝は順当といえば順当。しかしこの結果を意外だと受け取ったファンも少なくなかったのではないか。実際、大会パンフレット掲載の結果予想では、ゲーオ優勝を予想したのは8人中2人だけ。筆者も含めた5人は山崎秀晃を推している。
それだけ、3月に行なわれた日本代表決定トーナメントでの山崎の強さが際立っていたということだ。同時に、ゲーオへの評価は下降線を描いていた。
昨年11月のタイトル防衛戦では木村“フィリップ”ミノルをKOしたものの、その後の2試合では精彩を欠いた。相手を崩してからのヒザ蹴りを重視するムエタイの癖で、K-1では反則の組み付きが多くなってしまったのだ。チャンピオンである一方、K-1ルールへの対処は遅れている選手。それがゲーオの印象だった。
秒殺されたHIROYAは負けて「スッキリ」。
ところが、である。この日のゲーオはいきなりパンチで攻めてきた。一回戦、HIROYAを1ラウンド36秒でKO。準決勝では優勝候補の1人、野杁正明を判定で下した。決勝の相手は山崎に勝ったイリアス・ブライド。前回の対戦で苦しめられた相手だが、ダメージが残るブライドはゲーオの敵ではなかった。2ラウンド、ヒザ蹴りで立て続けにダウンを奪って3ノックダウンによるKO。終わってみれば、ゲーオの強さは圧倒的だった。組み付きが目立ったのも、野杁戦の後半だけ。
「対策はしていたんですけど。裏をかかれたのか。蹴りを意識していたところにパンチが飛んできました」
そう語ったのはゲーオに秒殺されたHIROYA。コメント中には笑顔も見せていたが、それは「もうスッキリ負けたので」。予想外のゲーオの強さに、笑うしかなかったのかもしれない。
ゲーオ自身は「一回戦をKOで勝てたのが大きかった」とコメントしている。「今回はパンチを多めに使うこと、パンチを強く打つことを意識していた」とも。直接は言わなかったが、過去2試合の評価を受けて「このままではまずい」と感じていたのかもしれない。試合前、バックステージを覗いた関係者からは「今日のゲーオは目の色が違うってみんな言ってますよ」という言葉を聞いた。