野球善哉BACK NUMBER
西武には、やはり鬼崎裕司が必要だ。
その左眼は常に前だけを見ている。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byMatsumoto Kiichi
posted2016/05/28 11:00
100試合に出場したのは2013年の一度だけ。今季は再び3ケタペースで出場を重ねている。
どんな逆風にも嘆かず、受け入れて先に進む。
それでも鬼崎は、5月4日に一軍に再昇格すると出場機会を増やし、今は遊撃手のポジションをほぼ手中にしている。
そんな自身の境遇を、鬼崎はどう受け止めてきたのか。
「自分が開幕からスタメンで出られなかったり、二軍落ちしたりというのは力不足以外の何物でもないので、嘆く気持ちはなかったです。もちろん、レギュラーになりたい、スタメンで出たいとは常に思っていますけど、現実はそうではなかった。ならば、どういう風に準備してアピールするか。いいところで一本を出したり、しぶとくいい仕事ができたときに、『じゃあ鬼崎を使おうか』と監督の頭に入れるのかなと」
遊撃手を育成したいチームの方針や自身のケガなど、不運に見舞われながらも、鬼崎は「受け入れないと先に進めないことだから」とコツコツと出場機会を狙っていたのだ。
鬼崎の左眼には、偶然にも筆者と同じ病気が。
そして筆者には個人的に、かねてから鬼崎を見ていて気になることがあった。
それは左右の眼の大きさが均等ではないということだ。詳しくいうと、左眼が右眼に比べるとやや小さく、つむっているように見える。
実は、彼の左眼には先天性の病気がある。
「先天性眼瞼下垂」というものだ。偶然にも、筆者の左眼と同じ病名だ。
眼瞼下垂には先天性と後天性のものがあるが、特徴は、外見でも分かるくらい瞼が降りてふさがっている点だ。完全にふさがっているわけではないのだが、やはり普通の人の眼よりも視界が狭い。また、太陽など強い光があるところではその瞼が通常よりもさらに下がるケースもある。
「同じ病名の人に初めて会いました。僕も手術しています。1回か2回か回数は定かじゃないですけど」と眼についても気さくに話してくれた鬼崎だが、実際、眼の状態に問題はないのだろうか。
「特に問題はないですよ。人より眼がふさがっていて視界が狭いといわれるかもしれませんけど、僕は先天性だし、生まれてからずっとこの眼だった。だから、視界が広い通常の眼というのを知らないんですよ。みんながどういう視界を持っているかわからないし、僕にとってはこの視界が普通。野球をやる分には不自由を感じたことはないです」